Interview
「チェーン店はどのような場所に作られるのか」
地図を使って都市を空間的に分析する
横浜市立大学 国際教養学部 都市学系 准教授
後藤 寛 先生
人の動きから国際関係まで
位置情報であらゆることが分析できる
私の研究内容の一つ目は、「GIS(地理情報システム)」といってデジタル地図やその社会での活用方法の開発、人の動きから都市、国際関係まで、あらゆるスケールの空間現象についての地図を使った分析です。デジタル地図はスマホの基本アプリとして当たり前に使うものですし、地図を使っている意識がなくても、現在位置はどこか、どこの町にいるのか、どの店が近いのか、最寄駅からの電車の乗り継ぎは……とさまざまなアプリが位置情報を利用して動いています。物事の位置(場所)は時間(歴史)と並んであらゆる現象やそれらの関係を考える重要な基礎で、データ量は膨大です。地図を使う地理学は昔からありますがコンピュータを駆使しての分析処理することではじめてわかることがたくさんあるため、GISという分野が成立しました。
研究内容の二つ目は「都市解析」といって街の広がりやお店の分布を数量的に分析したり、モデル化したりして説明づける分野で建築学、都市計画学の一部です。都市解析の関心をビジュアル化して実現するツールとしてGISに関わりました。このようなツールを使って、ファッションショップなどチェーン店は街の中でどのような場所や、どのようなモールの中にあるのか、全国的な分布の特徴は、といった立地の特徴を明らかにする比較分析や、20世紀前半においてエジプトをはじめとした中東地域の交通・経済が、スエズ運河の交易を通して世界や日本との関係の歴史に与えた影響の分析などを研究テーマとしています。
子どもの頃、鉄道の車両の長さの違いが気になって……
子どもの頃に鉄道好きだったことが、研究に興味を持ったきっかけだったと思います。時刻表を眺めてはさまざまな鉄道に思いを巡らせているうちにふと、路線によって車両の長さがどうして違うのかと思うようになりました。そして、利用する乗客の人数の違い、地域に住んでいる人の数の違いで長さが決まるのか……と気づき、大都市と農村のような地域差への興味につながりました。
それでも思うような研究ができる分野にたどり着くまでには模索がありました。学部では都市社会学を学びましたが違和感があり、たまたま受講した授業で、客観的な空間形成を研究する都市解析という分野を知ったことや、指導教官に「君の研究は建物だけで人が出てこない」と言われたことを契機に、大学院では都市工学専攻に進みました。大学院に入ったタイミングでGISという分野がちょうど始まったのですが、「君の関心にはこっちの方が合うんじゃない?」と誘われる機会があり、いつしか人文地理学の中の都市地理学、商業地理学にもどっぷりとハマりました。結局、都市計画学、地理学どちらとも少しずつ違和感を覚えながらそれぞれを使い分けるように研究活動をしています。本当に偶然の出会いの大切さをかみしめています。
地図やデータで社会を動かす
人の行動や集まり具合に関するさまざまなデータの組み合わせを工夫して、数多くの地図を作成し見比べる、あるいはデータを整理して表やグラフにしたものを見ながら特徴を考えるといった作業をするのが日常で、その中で地図やデータの中から地域の特徴をスパッと説明できるパターンを見つけた瞬間は、なによりうれしいです。
データ、数字を通して、住む場所の選び方を含めた人々の行動の理由を発見すること、それを客観的な根拠に基づいてコントロールする方法を見つけ社会を動かすことにもつながることが、この分野のやりがいだと思っています。
今はつまらない勉強でも、この先どこでどのように関わりができるかわかりません。私の専門でいうともちろん一番は地理ですが、学生がうんざりしがちな数学のx、y座標を使ったグラフの描画が、コンピュータで図形を描く基本のキだったりします。地理で出てくる緯度経度を数学のx、y座標で表現するなんて高校生の時点では考えもしませんよね。
このように皆さんがまだまだ知らないこと考えつかないことが世の中にはいっぱいあります。未知のことを知って視野がひらける機会には柔軟に吸収して自分をアップデートしていってくださいね。とくに昨今はAIの進化で学問も社会も一気に変わる勢いです。数学が嫌いだから、コンピュータが苦手だから、とはいっていられません。理系文系関係なく「AIに使われる」側にならないような人生を進んでください。