Interview
「航空宇宙工学」で追求する、私たちの安心・便利な生活
横浜国立大学大学院 環境情報研究院 人工環境と情報部門 准教授
樋口 丈浩 先生
航空機・ドローン・衛星……研究対象は地球上から宇宙までの様々な飛行体
私の専門は「航空宇宙工学」、その中でも「飛行力学」「誘導制御工学」を中心にした研究を扱っています。飛行力学とは、空間内で航空機、宇宙機がどのような力を受けて、どのような動きをするか、を扱う学問になります。誘導制御工学はさらに、その対象物をどのように動かすか、どのように安定させるか、という分野になります。航空機やドローン、宇宙ロボットや月着陸機など、航空宇宙空間を移動・運動する物であれば幅広く研究対象として扱っています。
近年は、特に「群制御」の研究に力を入れており、これまで大きな衛星や機体を用いていた航空宇宙環境システムに代わり、より小さな衛星や機体を一度に多く扱うことによって、より広く、安く、強固なシステムの可能性について追及しています。例えば、これまで災害発生時には衛星やヘリコプターでの災害観測がそれぞれ単独で行われてきていますが、全体の情報を統合し、衛星・ヘリコプター・ドローンの複合的なシステムを利用した、より効率的で迅速な情報収集システムの開発を行っています。他には、現在のトラック配送に代わりうる、多くのドローンを利用した貨物輸送の効率良い配送経路や給電所の経由などに関する研究も行っています。さらに、群制御の他にも、衛星・航空機の姿勢制御・誘導制御に関する研究も行っています。
ブルーエンジェルスに魅せられ、航空領域への道を模索
私は小学生の頃、父親の仕事の関係により米国で暮らしていました。その間、米国海軍所属ブルーエンジェルス（日本のブルーインパルスのような飛行隊）の曲芸飛行を海軍基地に見に行って以来、航空機に魅了されました。当時の旅客機は寛容で、フライトアテンダントの方に頼んでタイミングが合えば操縦室に入れてもらえるようなこともあり、ますます航空機が好きになったことを覚えています。当時は視力がパイロットにとって必要不可欠な要件であり、子供のころから目の悪かった私は、パイロットでなければ、何をすれば航空あるいは宇宙に関連する領域に進めるかについて考えました。大学進学時は研究に直接的に関わっていたわけではありませんでしたが、鳥人間コンテストのサークルに参加し、興味を育みながら現在の分野の研究室に所属することになりました。航空宇宙機を直接的に扱うことは難しくても、遠隔で自由に扱う研究に携われることにはまっていったのです。
飛行力学から辿り着いたニュートン力学の真意
航空宇宙分野、特に私の専門である飛行力学および誘導制御工学の分野では、高校物理で皆さんの学んでいるピュアなニュートン力学が直で生きてくるところに面白みを感じています。高校生の頃、運動の第1法則、すなわち、慣性の法則を学んだ時、全く理解ができない自分がいました。「運動している物体は等速直線運動を続ける」の意味がわからず、世の中に止まらないものなどないだろう、と思ったものです。当時、冬になるとアイススケートによく行っていましたが、どう頑張っても等速直線運動を続けることができないことに納得がいっていなかった自分を思い出します。
摩擦や熱、音などについて学ぶうちに、その疑念は少なくなっていったのですが、飛行力学を学び始めてから、その概念が一気に吹き飛ばされたのを記憶しています。航空機・ロケット・衛星は、自動車や船舶に比べ、はるかに外力が少なく、多くの外力を0と近似することができます。その結果、ニュートン力学の真意に辿り着くことになります。宇宙空間では本当に外力が無ければ等速直線運動となりますし、航空機は空気力を概ね近似した通りに再現できます。2024年1月に月着陸を果たしたSLIMの着陸誘導則の開発も手伝わせていただきましたが、やはり、ニュートン力学に基づく運動方程式から月着陸軌道を設計するという不思議な感覚と、その精度を確認しつつ、実際に着陸を見て感動を覚えました。
樋口先生からのメッセージ
受験生の皆さんには、ぜひ将来の目標と夢をもって受験先を決めていただければと思います。その際、単に夢を追いかけるのではなく、自分が30年後、40年後にどのような社会を創る人間であるかを想像しながら、大学・学部を決めてください。今、○○が流行っているかもしれませんが、30年後その業界はどうなっていますか？是非そんなことを考えながら進路を決めてもらえればと思います。
また、高校までは先生方から習います（学習）。大学からは皆さんは学位を修めます（学修）。自発的に行動できない学生は何も成し得ません。ぜひそのあたりを意識しながら、目標を意識して受験を頑張ってください。
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