山形大学 学士課程基盤教育院 渡辺 絵理子 先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

イモリは心臓で切断されても再生できる
――イモリだけに生み出された新たな遺伝子とは?

山形大学 学士課程基盤教育院 准教授
渡辺 絵理子 先生


イモリの非常に高い「再生能力」

有尾両生類アカハライモリを用いて、「遺伝子重複」によって新しく生み出されたと考えられる遺伝子「SMIS2」について調べています。「遺伝子重複」とは、新しい遺伝子を生み出す仕組みの一つです。細胞が分裂するときに、たまたまDNAのある部分が重複してしまうと、その重複した部分にのっている遺伝子も二つになります。そのどちらかが新しい機能を獲得することにより新しい遺伝子が生まれると考えられているのです。
イモリは、研究対象として大変面白い動物です。イモリのユニークな能力として有名なのは非常に高い再生能力を持つことで、皆さんもテレビ等で手足や尻尾、眼球や心臓も再生できる動物として紹介されているのを見たことがあるかもしれません。よく「トカゲの尻尾切り」と混同されますが、トカゲの場合は、危険から逃げるために尻尾を切り離せる部分が決まっており、さらに再生した尻尾の構造は完全ではありません。一方、イモリは尻尾や手足のどこで切断されても切断された部分から先を完全に再生することができるのです。

魚やカエルとは異なり「体内受精」するイモリ

そしてもう一つの面白さは、イモリが「体内受精」を行う動物だということです。多くの魚やカエルは「体外受精」を行います。サケのメスが産卵するそばで、オスが体を振るわせて放精し、白っぽい液体が広がる映像を見たことがある方も多いと思います。この時、精子は水中を泳いで卵に到達し、受精が行われます。これに対してイモリは精子を含んだ精包と呼ばれる塊をあらかじめメスが受け取って体内で保存し、産卵時にメスの体内で受精が行われます。このやり方であれば、受精や産卵をより有利な時期や場所に行うことも可能となります。「体内受精」の獲得は、動物が水中から陸上にその行動範囲を広げる上で大きな役割を果たしたものと考えられています。ただし、イモリの卵はジェリー層と呼ばれる寒天のような構造に取り囲まれているので、受精を行うために精子は自ら動いてこの構造を通り抜けて卵に到達する必要があります。淡水中で受精するタイプのカエルなどでは精子が淡水に触れることで動き出すのですが、イモリの精子は淡水に触れることができません。では、どうやってイモリの精子は動き出すことができるのでしょうか。

新しい機能を獲得したコピー遺伝子の発見

アカハライモリの精子の運動を開始させる分子として私たちが発見したのがSMIS1です。SMISとは「Sperm Motility Initiating Substance(精子運動開始因子)」の頭文字を取ってつけた名前です。その後SMIS1は淡水中で受精するヒキガエルや、木の上に作られた泡巣の中で受精するモリアオガエルなど、いろいろな方法で受精する両生類の精子の運動にも関わっていることが明らかとなりました。
さらに私たちはSMIS1から遺伝子重複により生じたと考えられるSMIS2も発見しました。SMIS2は「イモリ科」が生まれた時期より後に生じた、イモリだけが持つ遺伝子であると推測されます。また、SMIS1は受精に関係する場所においてのみ使われる遺伝子ですが、意外なことにSMIS2は心臓や手足でも使われることがわかりました。SMIS2は SMIS1にはなかった新しい機能を獲得していると考えられます。また、SMIS2は受精においてはSMIS1と同様に精子の運動を開始させる機能も持っているので、今まさに、受精に特化して働く遺伝子から、全く異なる機能を持つ遺伝子が生まれているところなのかもしれません。この「遺伝子重複」によって新しく生み出されたSMIS2が新たに獲得した機能はどのようなものなのか、これを明らかにしようと私たちは現在研究を進めています。

医学や農学の技術開発にもつながる生物学

私は学生時代から発生学、つまり新しい個体がどのように生じるのかという問題に興味を持ち、ニワトリの手の形やチョウの羽の模様はどうやってできるのかなど個体における形づくりをテーマとして扱ってきました。そして今は、SMIS2を調べることにより、生物がどのようにして全く新しい形質を獲得するのかを、分子のレベルで理解できるようになるのではと期待してします。SMIS2の研究は、これまで誰も知らなかった現象をあきらかにすることができる非常に面白い研究です。
発生学を含めた「生物学」の研究は、病気の治療方法を見つけたり、有用な品種を作り出したりする技術の開発につながる場合もあります。では、医学や農学の研究と違う点は何かと考えると、技術の開発自体を目的とせず、あくまでも生物において何が起こっているのかを知るために研究していることではないかと思います。しかしながら、このような研究により、思いもよらない知見が得られ、それを目的とした研究では見つけられないような技術開発のヒントにつながるものであると思っています。

渡辺先生からのメッセージ

受験勉強において「生物は暗記だからつまらない」という言葉をよく聞きます。どうしても覚える単語がたくさんになってしまいますが、生物の本質は出てくる単語の暗記ではありません。私たち人間を含む生物が生きているその中では、いろいろなシステムが働いています。このシステムは非常に複雑であり、大変よくできています。どんなことが起こっているのかを大きく理解しようとしてみてください。

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