山形大学 理学部 理学科 笠松 秀輔 先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

物理の基本方程式で「原子」を可視化!
高性能・高機能な材料の開発を加速せよ。

山形大学 理学部 理学科 准教授
笠松 秀輔 先生


“理想的”な材質の起源は、“中間的な不規則性”にある

高校では、物質の原子スケール描像として主に、原子が規則的に並んだ理想的な結晶や、完全に不規則なアモルファスについて学ぶと思います。しかしながら、実際に身のまわりで用いられている材料の物質は、そのような理想的な原子の並びだけでは性質が決まりません。結晶であっても内部には不純物や原子の抜け(欠陥)があり、また結晶の表面や結晶同士の界面では結晶内部とは原子の並び方が異なります。また逆に、不規則であるとされるアモルファスには、実はある程度の規則性があることが近年の研究から分かってきています。そして、このような理想的な物質からのズレ、中間的な不規則性を活用することで初めて、種々の実用材料の高い性能が引き出されているのです。例えば構造材料の強さやしなやかさ、燃料電池やLiイオン二次電池の電極触媒活性や電解質のイオンの流れやすさは、このような理想的な物質からのズレが起源となっています。

コンピュータシミュレーション × AI技術 で多数の試行錯誤から脱却

高性能・高機能な材料の開発を加速するためには、原子スケールで物質の構造がどうなっていて、その結果、性質(物性)がどうなるのかを知り、欲しい特性を実現するための物質設計を行う必要があります。しかし、物質を構成する原子集団の振る舞いを可視化するのは非常に困難で、従来の材料開発は多数の試行錯誤に依存してきました。
私はこれを解決するためにコンピュータシミュレーションを用いる「計算物質科学」と呼ばれる分野の研究をしています。この分野では、ニュートンの運動方程式やシュレーディンガー方程式などの物理学の基本的な方程式を解くことで、コンピュータの中で原子集団のふるまいを予測し、観察します。そこからもたらされる理解を元に、試行錯誤に依存しすぎない合理的な材料設計が可能になることが期待されています。私は特に、不純物や欠陥が大量に入った結晶材料や、中途半端な不規則性を持つガラス材料、さらにはそれらの表面・界面の物性に興味があります。応用先としては、全固体Liイオン電池や燃料電池、光学材料、半導体デバイスなど様々です。そのような物質をシミュレーションして現実と照らし合わせるためには、膨大な数の原子の並び方の可能性を調べる必要があります。これを可能にするために、スーパーコンピュータの効率的な活用技術や、機械学習を用いた計算加速技術の開発を行っています。また、そのようにして得られた不規則材料系の膨大なシミュレーションデータにAI技術を適用することで、期待される特性を有する新材料の探索を行う「マテリアルズインフォマティクス」技術の応用研究も始めたところです。

守備範囲が広く、あらゆる分野とのコラボで活躍できる

私がこうした研究に興味を持った最初のきっかけは高校時代、化学の先生が「物質の表面はどんなふうになっているのか、実はそんなによく分かっていないんだよね?」と話してくれたことでした。「原子スケールでは実際のところどうなっているんだろう?」と追求することが、今でも研究テーマ選びの指針になっている気がします。また、もともとは宇宙開発に興味があったのですが、スペースシャトルチャレンジャー号やコロンビア号の事故の根本原因の1つが材料の性能や信頼性だったと知ったことも、材料系の学部への進学を選んだ理由です。大学3年の実習で、基礎的な方程式をコードに落とし込んでプログラムを動かすことにより、原子の集団が振動する様子を視ることができたのは、コンピュータシミュレーションで研究する面白さを知った、ある種の原体験だったかなと思います。
 物質・材料科学は、情報技術から、環境・エネルギー技術、土木・建築にいたる幅広い分野の礎です。そのなかでも計算物質科学は非常に守備範囲が広く、様々な分野とのコラボレーションで活躍する機会が多いと感じています。また、たった1つ2つの方程式で表現される物理法則から、こんなにも多様な物質の物性が現れるというのは信じがたいことであり、それをコンピュータの中とはいえ「視る」ことができるのはこの研究分野の醍醐味だと思います。最近ではコンピュータの加速や機械学習技術の進展により、実験結果を非常に良く再現しつつ、実験では直接視ることのできない原子スケール描像を解明できることが増えており、ワクワクが加速しているところです。

笠松先生からのメッセージ

大学在学中や卒業後にやりたいことが決まっている人はそれを実現するために、そうでない人は自分の選択肢を狭めないために、まずは受験勉強を頑張ってください。ただし、十分な睡眠とおいしい食事、適度な運動も、努力を継続するためには重要です。みなさんが志望校に合格し、人生で夢中になれるものに出会えることを祈っています。

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