電気通信大学 大学院情報理工学研究科 田中 一男 先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

飛行ロボットの複雑なシステムを
数学的視点で思いのままに制御する

電気通信大学 大学院情報理工学研究科 教授
田中 一男 先生


空飛ぶロボットは、ロボット制御の中で最も難しい

私の現在の研究内容は、複雑なシステムをスマートに制御する方法論の構築と、それを用いた飛行ロボット(無人航空機)制御への展開です。
方法論の構築については、博士後期課程のときから一貫して行ってきた理論的な研究です。力学システムで考えると、多変数かつ高次の非線形運動方程式で記述されるシステムなどが複雑なシステムに相当し、たとえば空飛ぶロボットの運動などがその典型です。このようなシステムを「スマートに制御する」とは、言い換えれば、複雑な運動特性を有するシステムを意図通りに制御するということです。
空飛ぶロボットの運動は、複雑な空力特性も加わります。そのため、飛行ロボットの制御はロボット制御の中でも最も難しいとされています。このような対象に積極的に応用展開をすることで、我々の構築した方法論の有効性を示しています。そのため、研究室の学生たちとともに北海道十勝地方の広大なエリアで年間約50日にわたり大規模かつ長期間の飛行実験を行っています。これは他大学や他研究室には類を見ない当研究室の大きな特徴です。

複雑なシステムを定式化できる「ファジィモデル」との出会い

この研究を始めたきっかけは、博士課程の学生だったときに、複雑な非線形システムを効果的に表現できるファジィモデルとの邂逅(「かいこう」と読みます。難しい漢字ですが、こだわりを持って使っています。意味を知ることで、言葉の深さを感じられると思いますので、高校生の皆さんもぜひ調べてみてください)に端を発しています。複雑なシステムの非線形性をメンバーシップ関数と呼ばれる関数の中に巧みに埋め込むことで、元の複雑なシステムと完全に等価な振る舞いをするファジィモデルを構築できる点が非常に興味深く、その鮮やかな定式化に感動したのを覚えています。一方で、その当時はファジィモデルの構築はできたものの、モデル情報を利用して「意図通りに制御する」方法論が皆無でした。当時の私の指導教員もこの点を強く意識されており、この方法論構築が私の博士論文のテーマになったことは自然な流れでした。その後、自分が研究者として独り立ちできた頃、「複雑なシステムをスマートに制御するための方法論」の応用展開先を考えていました。どうせやるなら、ロボットの中でも一番制御が難しいとされている空飛ぶロボットへの応用展開を、と思い立ち15年ほど前から始め今に至ります。

雄大な自然の中で行う実験が与えてくれる感動とやりがい

「複雑な運動特性を有するシステムを意図通りに制御する」という、一見とっつきにくい問題を、「微分方程式の解の収束性に関する数学的見地」などを援用して数理的に解ける設計問題として定式化するところに、学術研究としての面白さを感じています。さらに、災害危機対応などが可能となる飛行ロボットの制御技術の開発による社会貢献という面でも大いにやりがいを感じます。また、当研究室の特徴である北海道での長期実験では、野生のシカやキツネ、ツルなどにたびたび遭遇します。これは都会育ちの多くの学生にとって刺激的な体験です。また、ロボットが自由自在に大空を舞う姿を目の当たりにすると、「今までの人生の中で一番感動した」と多くの学生が語ってくれます。北海道の雄大な自然の中で研究チームとして協力しながら行う飛行ロボット実験は、学生たちにキャンパス内では得られない貴重な経験と充実感・達成感をもたらしています。このように、研究を通して若い学生たちに感動を与えられることは、教員としてこの上ない喜びです。さらに、北海道十勝の歴史や文化の理解、地元の方々との交流を通して人間形成の機会を提供できることも、研究者というよりも教育者としてのやりがいを感じています。

田中先生からのメッセージ

電気通信大学には電気・情報分野だけでなく、私の研究室のようにロボティクスやシステム制御を得意とする多くの研究室が存在しています。また、他の理工学系の大学と同様に、多くの学生が大学院まで進学します。このため、研究室に所属して研究を行う時間が自然に増えます。受動的に教わる講義とは異なり、研究は学生が能動的かつ主体的に進めるものです。その原動力は興味(面白さ)であり、推進力は充実感・達成感(やりがい)です。その先には感動が待っています。充実した大学・大学院生活を送るためにも、今のうちから興味が持てそうな分野をぜひ探してみてください。なぜなら、大学・大学院での研究は学生こそが主役だからです!

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