東京外国語大学大学院 総合国際学研究院 山内 由理子先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

植民地化の歴史と深くかかわる
オーストラリアの先住民研究

東京外国語大学大学院 総合国際学研究院 准教授
山内 由理子 先生


都市に出てきている先住民の人々

学問分野は文化人類学でオーストラリアの先住民の人々に関して研究しています。
オーストラリア先住民研究というと、中央砂漠や北部の熱帯地域など、オーストラリア先住民の植民化以前からの生活や慣習が色濃く見られるいわゆる「遠隔地」と言われるところに偏っていることが多いのですが、私が研究テーマとして選んだのは都市であるシドニーの郊外に出てきた先住民の人々でした。日本でも教育や就職のために都市部に出てくる人は多いですが、先住民の人々も現在の世界を生きているのですから、都市に出てきている人はそれなりにいるはずで、そのような人々に関して注目がほとんどないのはおかしいと思ったからです。そこで、彼らが都市部においてどのように「コミュニティ」感覚を醸成し、アイデンティティを形成しているのかを研究しました。彼らの多くは必ずしも一か所に集まって暮らしているわけではありません。そのため、親族としての繋がりやさまざまな先住民関連のサービスやイベントなどで他の先住民と会い、その経験の積み重ねを通じて「コミュニティがある」という感覚を得ています。また、植民地化の歴史の中で強制的に親から引き離されたり移動させられたりする人も多く、その中でどのように折り合いを付けて行くか、という課題にそれぞれの人々が多様なやり方で向き合っています。

シドニー郊外の先住民の人たちにとって、初めて出会った日本人が自分だった

私が研究していた地域はシドニー郊外と言っても、社会的経済的に豊かではない人たちが比較的多い所でした。住宅なども中心部と比べると安く、色々な不便はあっても先住民や移民の人々が多く暮らしており、私も日常生活の中で彼らと接触していました。中国人やベトナム人などのアジア人も多かったのですが、日本人だけはほとんど見られず、この地域の先住民の人々にとっては、私が初めて知り合った日本人でした。当時の日本人は、どちらかというと豊かな地域に多かったのですが、オーストラリアに在住しているのに、日本人と先住民の接触がほとんど見られないというのは残念なことだと思っていました。そんな折に、トレス海峡出身のある女性と出会い、オーストラリアの北岸で日本人がかつて真珠貝採取業のために渡豪し、先住民とも接触していたことを聞き、興味を持ちました。それをきっかけに、日本人とオーストラリア先住民の「ミックス」の人々に関しての研究を始めました。
研究を通して、彼らは「ハーフ」、つまり日本人と先住民の「半分」ずつであるという意識を持っているのではなく、むしろ一時言われた「ダブル」という言葉のように、完全に先住民であったり日本人であったりすることと、「ミックス」であることは両立するという意識があるのではないかと感じました。現在も、彼らについての研究を進めています。

法学部卒業後に現在の研究の道へ
きっかけは知人からのひと言

私はもともと法学部に在籍していましたが、法学部での授業よりも人文社会科学系の授業に興味を持ったことをきっかけにそちらを目指すことになりました。ただ、文化人類学の道に進むと決めたものの、研究テーマが中々定まらず悩んでいました。そんな時に偶然お会いしたある方に「オーストラリア先住民研究をやってみれば」くらいに言われたというのが研究のきっかけです。ただ、オーストラリア先住民について研究するのならば、都市にいる人々についてやりたいというのは前々から思っており、そこから今日に至ります。

「研究をする」ということ自体が
植民地的な力関係を引きずっている

文化人類学の研究では、対象となる地域や集団の人々の話を聞くだけでなく、できるだけその人たちと同じ状況で生活をして彼らの社会の在り方を知るということをします。また、話を聞く際にも、その背景というのを重視します。そのため、実際の人間と深い形でかかわるというところがやりがいです。だからこそ、必ずしも楽しいことばかりではなく、考えさせられる内容も非常に多いです。例えば、これは先住民研究に限らないと思いますが、研究をしているとやはり今まで世界がどれだけ植民地化により形成されてきたかということを考えさせられます。研究するということ自体が、植民地的な力関係の構造を引きずっている中で、直接の植民者ではなくてもどう脱植民地化を考えていくか、というのが大きな問題だと思っています。

山内先生からのメッセージ

受験はつらいかと思いますが、勉強というのは、本来は楽しいものだということを意識してもらえればと思います。特に、英語の文法と世界史は非常に役立つと思います。複雑な文章は文法がわからないと理解できませんし、世界の様々な歴史を知っておくと、世の中がどうなっているのかを考えるのに役立ちます。また、勉強を通じて、集中して何かをする、ということの訓練にもなるでしょう。ただ、大学では、高校までの誰かが「これをやればよい」とセッティングしてくれる勉強から、「自分自身の世界を見るツール」としての勉強という風に意識の切り替えが必要ですので、そういった意識も持てるとよいと思います。

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