東京外国語大学大学院 総合国際学研究院 大石 高典先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

「貧困」や「紛争」だけじゃない
アフリカ社会の生きる豊かさ

東京外国語大学大学院 総合国際学研究院 准教授
大石 高典 先生


民族の歴史を調べると
自然環境との関わりも見えてくる

中部アフリカにあるカメルーン共和国の熱帯林地域で、狩猟採集社会と農耕社会がどのように共存して暮らしてきたのかについて研究してきました。コロナ禍で3年半近く中断しましたが、再開しつつあるところです。複数の民族が共に在るコミュニティに焦点を当ててその歴史を探ることをやっているわけですが、私が面白いと思っているのは、そこに人と自然の関係も絡んでくることです。狩猟採集民と農耕民では同じ熱帯林という生活環境との関わり方が違います。それがふたつの集団の相互認識や社会関係に影響を与えますし、逆に民族間の関係が変わると環境利用の変化を通じて周りの自然にも影響を及ぼします。アフリカ熱帯林の世界では、人と自然の境界が、自己と他者の境界を考える実践にもなっているのです。このような人間社会と自然の相互作用に関心を持って研究を進めています。

大学では農学部だったが
地域と自然の関係に興味をもち、生態人類学の道へ

少年時代には、実家の庭で野菜を育てたり近くの海で釣りをしたりということに熱中していました。何より土の世界や海そのものに底知れない魅力を感じましたし、自分の手で栽培したり、捕まえた生き物を自分で食べたり、親しい人たちに分けるということに自分が生きているということの確からしさとささやかな喜びを感じました。高校時代は生物学の一分野である生態学を学びたいと思っていましたが、食の要素も外せないと考えて農学部に進学しました。そこでは正式な授業よりも学生が自分たちで学びたいことを学ぶ自主ゼミ活動から多くを学びました。山村に通いながら森林について学んだり、農薬を減らしてみかんを作る取り組みに関わったりする中で、純粋な生態学から地域社会と自然の関係へと関心が動いていき、生態人類学や地域研究という学問を専攻するに至りました。

イメージとは異なるアフリカ社会
現地で関わることで世界の見え方が変わる

カメルーンでの研究を始めて22年目になりますが、行くたびに発見があります。対象としている地域の自然、社会、国家などそれぞれのレベルで研究生活の様々な段階で違う味わいがあります。もちろん、深く関わった人物が亡くなったり深刻な悩み相談を受けたりすることもあり、楽しいことばかりではないですが、ひとつの研究対象にじっくり関わるということの幸いだと思います。アフリカの国々について、日本社会では一般に「貧困」や「紛争」などネガティブなイメージで語られることが多いですが、実際に関わってみると、地域社会や個人の生という意味で豊かさを感じることが多く、世界の見え方が変わることも少なくないです。アフリカ社会に関わったからこそ見えるものの見方を日本社会に伝えることも教育・研究の上でのモチベーションになっています。

大石先生からのメッセージ

大学に入ることは、プロセスに過ぎません。それだけを目標にせずに、より長いスパンで自分がやりたいことは何なのかを考え続けてください。特に偏差値はひとつのモノサシにすぎません。偏差値だけで大学・学科選びをすると、入学後に関心が合わなくて困難な状況に陥ることも少なくありません。もう一つは、「食わず嫌い」をせずにいろんな勉強をしておくとよいと思います。なぜかと言うと、すぐには役に立つように思えない学びが、将来思いがけない形で役立つということがよくあるからです。研究においても、一見遠い分野の知見について学ぶことがブレイクスルー(突破口)につながることが多いです。

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