Interview
安全で効率良く「儲かる」林業を目指して
東京農工大学 農学研究院 自然環境保全学部門 准教授
岩岡 正博 先生
山岳地の林業で機械化を進めるために
私は、苗木の植付けから主伐収穫に至る様々な林業作業を、安全かつ楽に、効率良く行うための研究を行っています。究極的には、儲かる林業を目指しています。
非力で弱い人間が、大きくて重たい立木を扱うためには、身体に大きな負担をかけ、さらに危険と向き合わなければなりません。実際に現代の日本でも、毎年数十人の林業従事者が事故で亡くなられています。このような作業を安全かつ楽に行うための方策として、まず考えられるのが機械の活用です。それによって、人が行うよりも効率良く作業することが可能になります。そのような林業機械は、北欧や北米の平地で発展してきましたが、日本のような急峻な地形で使うには大きな障壁があります。
そこで私はまず、急傾斜地でも自立移動が可能な機械の研究に取り組みました。6本足で静的歩行する機械や、4本の足のうち2本の先端に車輪を持ち、車輪で機体を支えながら作業ブームで推進力を得て移動する「半脚式機械」の改良の研究をしました。半脚式機械は、急傾斜地への対応力が最も高いと考えていますが、一方で移動速度が遅いという欠点があります。この問題を解消するために、歩行のための脚構造や、それを用いた歩行方法、さらにその制御方法などに関する研究を行い、博士号を取得しました。しかし、これらの歩行機械には、重い荷物を運ぶ作業では非常にエネルギー効率が悪いという欠点があります。たとえ傾斜地で伐倒や造材ができたとしても、その材をどのように集めるかという問題が生じます。そこで、急傾斜地であっても高密に作業道を作り、車両系機械によって作業する方が効率的だ、という考えに至りました。作業道上ならば、手持ち機械を使った作業でも、安全性は増し、身体への負担は軽減し、さらに作業効率や正確さも向上します。これらについて、現実にデータを採って明らかにするとともに、より効率的な人員配置などについて研究しました。また現在は、高密路網を利用して、手持ち機械による作業を極力減らすための機械やシステムについての研究にも着手しています。
林業の付加価値を高める2つの手段
林業で生産される木材には、用材としての利用価値が低い部位もあり、これらをバイオエネルギーとして利用することは、林業の付加価値を高め、儲かる林業につながります。木質バイオエネルギーは薪や炭として古くから利用されてきましたが、近年、枝や梢端部、曲りの大きい部分をチップにしたり圧縮したりして輸送し、地域でエネルギーとして利用することが検討されています。私はこのチップ化や圧縮作業の最適なタイミングを、輸送距離や需要量などとの関係から明らかにしました。さらに、木質バイオエネルギー利用を評価する方法として、そのライフサイクルのエネルギー収支を計算し、小規模な熱利用では化石燃料より優れていることを明らかにしました。この収支評価は林業作業そのものにも適用でき、木材生産のエネルギー収支を明らかにするとともに、収穫時に出る不要部分をバイオマスとしてガス化することで、そのエネルギーで林業作業を行えることを示しました。
また、林業の付加価値を高めるもう一つの手段として、「森林認証制度」にも着目しました。これは、国際的な基準に基づいて、適切な施業が行われている森林を認証し、そこの林産物であることを保証することによって、消費者に選択的に利用してもらい、生産林になんらかの利益をもたらそうとするものです。私は、認証取得者に対する聞き取り調査などを行い、認証取得の追い風となる要因、障壁となる要因を明らかにしました。現在は、国際的な認証制度の一つであるFSCの審査員として審査に赴くこともあります。
林業現場の喜びの声が、私の無上の喜び
私は学生時代から四輪駆動車のトライアル競技などに関わっていたため、オフロード車両に興味があり、林業用の車両について研究をしたくて現在の専門を選びました。それが脚式機械の研究に繋がっています。その後、自身で研究室を主催し、学生には自ら研究テーマを考えさせる方針で指導してきたところ、木質バイオマスやLCA(ライフサイクルアセスメント)、森林認証制度などに興味を持つ学生が現れ、彼らとともに研究を進めてきた結果、いつの間にか様々な分野の専門家になっていました。
林業は産業としての規模が大きくないことから、現場との関係が深くなり、研究の結果をすぐに反映することが可能です。機械の検討や作業システムの改善など、現場でデータを取り、研究結果を現場にフィードバックすることによって、林業者などから喜びの声をいただけることが、私の無上の喜びです。
皆さんは無限の可能性を持っています。自身の進路を早い段階で狭めてしまうのではなく、できるだけ広い選択肢が残るように進路を選んでください。大学入試の時の興味が、卒業時まで変らないとは限りません。様々な選択肢を自身の中に残しながら進んでいくことで、最も合った専門に出会えるかもしれません。
それとともに、自己評価はできるだけ高くしましょう。むしろ根拠のない自信を持つくらいの方が良いと考えています。自己評価が低いと、そこまで到達しただけで満足してしまって、それ以上は努力が必要になるので、発展が小さくなってしまいます。しかし自己評価が高ければ、そこに到達するまでは努力ではなく、当然できなければならないことなので、そこから先の発展も容易になります。
選択肢をできるだけ広く持ち、さらに、根拠のない自信を持ってくださいね。
東京農工大学 農学府 自然環境保全学プログラム
https://web.tuat.ac.jp/~conserv/index.html
岩岡 正博先生の研究室
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東京農工大学_岩岡 正博先生
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