Interview
知恵をもって自然と共存できる人間社会へ
筑波大学 国際総合学類・工学システム学類 准教授
白川 直樹 先生
川と人間の関係をより良くするには?
私は川と人間の関係を良くしていくための研究を3つのテーマに沿って行っています。
1つ目のテーマは川の流量です。人間が川の水を生活や産業に使用すると、利用した分だけ水量は減ります。川を流れる水が減少する区間のことを減水区間と呼ぶのですが、この減水区間は生物の生息場の縮小、水質の改善作用の減少、景観の悪化など、環境に様々な悪影響を及ぼします。しかし、人間が生きるためには水が必要不可欠なため、このような悪影響を完全に排除することはできません。そのため川の流量の季節変動の分析、川の生態系のモデル化、人間活動に及ぼす影響を経済評価するなど、多方面の学問分野の成果を利用して総合的な評価の材料を提示しています。最近は川の世界地図を作っています。世界のどの場所を流れる川にどのくらいの流量があるとよいかを表す地図です。
2つ目のテーマは台風や大雨が引き起こす自然災害、特に洪水です。洪水は地震とは異なり、事前に対策が可能な災害です。しかし、完全に洪水の被害を抑え込もうとして、高い堤防や巨大なダムを建造するのは非効率で、合理的とはいえません。そのため、「不連続堤」(完全に川を閉じ込めずに少し隙間を作る堤防の配置方法)と呼ばれる昔から日本人が用いてきた堤防の作り方を現代によみがえらせる試みをしています。洪水の水の流れや被害額を算出することにより、より良い堤防配置を考える研究です。
3つ目のテーマは人口減少や地域間格差です。川はその土地固有の資源、地域の宝物です。地域の川が魅力的になれば,都会に出た人たちもやがて子供の頃に遊んだ楽しい思い出のある地元に戻っていく、これこそが地域の活性化につながると考えています。全国の川には、河川環境改善のために頑張っている地元の人たちがたくさんいらっしゃいます。川づくりの現状を調べ、分析することで地域の活性化につながると考えています。また、それ以外にも川が育んだ文化、例えば古典文学の中に川がどのように捉えられているか調べることなども研究テーマとしています。
川に魅入られた学生時代
災害の実体験から洪水の研究へ
田舎育ちの私は自然豊かな川に自ずと興味が向き、学生時代は河川敷へ出かけて時間を過ごしていたため、そこから河川環境を守る研究をしたいと思うようになりました。2015年の関東・東北豪雨の際には、直前まで自分が住んでいた町、住んでいた家が洪水の直撃を受け、2019年の令和元年東日本台風では洪水に巻き込まれ、石と泥水が行く手をふさぐ恐怖を体験しました。科学技術の発達した現代においても、人間の力は自然に到底及ばないことを思い知らされました。人間は力や感情ではなく知恵をもって自然とつきあっていかなくてはならないと気づき、洪水と向き合う研究を始めました。
また、人の縁でまちづくりの研究にも関わることになりました。全国各地の「川の民」の方々の魅力に触れ、これは未来の日本のために進めなければならないテーマだと直感しました。格好良く言えばそうなりますが、純粋に川遊びが楽しかったこともあるのかもしれません。
自然を相手にした研究であると
同時に人間を相手にした研究
川は単純に見えて実にさまざまな要素の影響を受けており、いくら追究しても終わりはありません。川の研究は、自然、人間社会、人類のそれぞれに対する認識が変わっていく面白さを味わえます。また、洪水の研究は人の役に立つ、というやりがいもあり、純然たる自然現象と人間社会との接点にどう折り合いをつけていくかという面白さがあります。どの川も個性があり、研究の楽しみは尽きません。
「枠組み」にとらわれないようにしましょう。「文系」「理系」などの枠組みは意思決定の効率を良くしてくれる面を持つので高校生のうちは良いと思いますが、なるべく早く枠組みから頭を解き放ち、自由に思考するようになりましょう。各教科や科目の内容はつながっています。一見無関係のような、例えば地理と数学にもつながりは潜んでいて、こういうつながりを意識すると理解が一段と深くなります。大学で学ぶ学問は、教科や科目の枠に収まりません。川の研究には、地理、生物、物理、世界史、数学、国語、化学といった科目が関わってきます。大学の学問を修めるのに重要なのは「知識」と「思考力」になりますが、知識は科目が広がれば広がるほど増え、思考力はいろいろな頭の使い方を経験することにより鍛えられます。受験に使う科目はもちろんのこと、受験に必要ない科目や分野もなるべく勉強しておくことが、後々助けになるに違いありません。
筑波大学社会・国際学群国際総合学類
https://www.kokusai.tsukuba.ac.jp/
筑波大学理工学群工学システム学類
https://www.esys.tsukuba.ac.jp/