Interview
大きな地球の営みを知るカギは
小さな石に秘められた「記憶」
富山大学 都市デザイン学部 地球システム科学科 教授
石川 尚人 先生
岩石の持つ磁化に詰まった地球の営みの歴史をひも解く
私の専門は、古地磁気学・岩石磁気学という分野です。天然の岩石や堆積物がもつ「古地磁気」の情報やその特性を利用して解析に取り組み、地球史における様々な時間・空間スケールの地球の営みを探っています。
岩石や地層には磁気を帯びた鉱物(強磁性鉱物:磁鉄鉱など、砂場で磁石に付いてくる砂鉄)が少量含まれています。その中には、その岩石や地層ができた当時の地球の磁場(地磁気)の方向や強さが保持された成分もあります。これは昔の地磁気の記録(古地磁気)、いわば「地磁気の化石」のようなものです。野外で岩石や堆積物を採取し、実験室でそれが持つ磁化の測定・解析をし、古地磁気情報を得ることで、地磁気の昔の様子や様々な時間スケールで起きている地磁気の方向・強さ・極性の変化を知ることができます。地磁気は地球の真ん中にある「核」の中での運動によって発生するので、核の動きを知るための情報になります。また、地磁気の変動と気候変動は関連性があるとも言われています。
岩石の古地磁気は、大陸移動や日本列島の成り立ちといった地塊の構造運動の解析にも用いられています。地磁気の方向はごくわずかに変動するものの、その変動を平均化すると真北を向きます。ところが、野外のある時代の岩石・地層から試料を採取し、古地磁気の方向を平均化すると、それが真北からズレている場合があります。このズレは、その岩石・地層ができた時代以降に、その岩石・地層を含む地塊が被った構造運動があったからと考えることができます。例えば、西南日本(糸魚川-静岡構造線から九州北部地方まで)で岩石の古地磁気を調べると、約1500万年前より古い岩石からは真北から東方向(時計回り方向)に40~50度ズレた古地磁気が得られます。このことから、かつて日本海はなく、西南日本はアジア大陸東縁部にくっついていましたが、日本海が拡大形成される動きに伴って、北部九州の東付近を回転の中心として約1500万年前に時計回り回転運動が起こったことが指摘されました。
砂泥が降り積もった湖底や海底の堆積物にも強磁性鉱物が含まれます。その強磁性鉱物の種類や構成、量、粒子サイズは、堆積物を湖や海に運んできたプロセス(河川や風:大気循環、水循環)の変動、すなわち地球表層での環境変動(気候変動)によって変化します。堆積物中の強磁性鉱物の状態とその変動を岩石磁気学的手法により明らかにすることで、環境変動の解析を行うこともできます。
驚きとワクワクが原動力
中学生で出会った地球科学に魅了されて
今の研究を始めたきっかけは、中学生の時に『地球の科学 大陸は移動する』という本を読んだことです。たまたま本屋で見つけ、「大陸は移動する」という副題に強くひかれて購入しました。そこには大陸移動や超大陸の存在といった、それまで知らなかったことが書かれていて、とてもワクワクしました。そして、強い印象として残ったのが「岩石は地磁気を記録する」ということでした。岩石は微弱ながら磁化していて、それは岩石が形成されるときに地磁気の影響で獲得したものであり、いわば「地磁気の化石」(古地磁気)であると記してありました。その岩石の磁化情報から地磁気の向きは逆転するということがわかってきたこと、そして、大陸の過去の位置を知る情報になることが本書には書かれており、大きな驚きでした。これがきっかけになり、地球科学、そして特に「地磁気の化石」に興味を持つようになりました。大学を選ぶ際には地球科学ができる学部・大学を考えましたが、古地磁気学までは全く考えていませんでした。たまたま入れた京都大学・理学部に古地磁気学の研究室があり、良き先生・先輩にめぐまれて、中学時代から興味のままにこれまでやって続けてくることができました。
どんな時間・空間も研究対象になる
自分の興味次第で地球上のどこへでも
古地磁気学・岩石磁気学は、様々な地球の営みを探る学問です。対象は時間スケール(太古の時代から現在まで)、空間スケール(地球規模の現象から岩石内部の現象まで)を問わず、自分の興味のままに設定できます。
実験で岩石試料の磁化を測定する際には、実験条件を段階的に変えていくに従って、岩石が長い年月記録してきた過去の磁化成分がだんだんと見えてきます。これは秘められていた「石の記憶」をひとつひとつ辿っていくようでワクワクします。また、ちっぽけな石の情報から、大陸移動や地磁気の変動といったといった地球規模の大きな地球の営みを想像できます。
私はこの研究分野を専門にしたおかげで、日本各地や外国(中国、フィリピン、インドなど)、南極大陸に調査に行くことができました。自分の興味に応じて、どこにでも行くことができる(研究費を得ることは大変ですが)ことも研究の楽しさです。
幼少期はきっとそうだったように、身の回りの出来事(自然現象も含めて)に興味をもち、不思議さ、面白さを発見して楽しんでください。考えてすることはもちろん大事ですが、頭ばかりでなく、手足・体を動かして様々なことを体験してください。そのなかで自分なりに工夫をしてみてください。寝食忘れるほどに、何かに熱中してみてください。遊びであれ、クラブ活動であれ、勉強であれ、やるときは真剣に取り組んでみてください。
富山大学 都市デザイン学部 地球システム科学科
https://www.sus.u-toyama.ac.jp/department/earth/
石川 尚人先生の研究室
http://www3.u-toyama.ac.jp/ishikawa/NewLabinTY/L_PREM-TY.html