東京大学 教養学部 渡邊 雄一郎先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

なぜ植物は動かなくても生きていけるのか?
植物が生きるために見せるダイナミクスに迫る

東京大学 教養学部 教授
渡邊 雄一郎 先生


「自然が語るストーリー」を読む

専門は植物環境応答学です。具体的に申し上げましょう。植物も立派な生物の一員として、生きていく上で必要な遺伝情報というものを持っています。植物が成長する過程で、持っている遺伝情報をどのように使っているかを研究しています。植物が成長するには時間がかかります。生育環境はいつもベストというわけにいきません。時に、厳しい温度や乾燥に向き合うことになるでしょう。植物は動けませんが、その変化に耐えて成長する能力を持っています。持っている遺伝情報を駆使してどのように危機からの回避を行っているかを知ろうとして研究しています。植物は自らその成長を始めた場所から移動することはできません。研究を始める前は「なぜ植物は動けない、動かないのか?」という問いを持っていましたが、今ではそうではなく「なぜ植物は動かなくても生きていけるのか?」という問いに答えたいと思って研究をしています。植物が生存する中で見せるダイナミクスに興味があるということになるでしょうか。
表向きは無愛想で動きがないと思われがちな植物を相手にしていますが、植物も人と同じく、ずっと付き合っていくとそれまで見えていなかった素顔が見えてくる気がします。自然が語ってくれる綺麗なストーリー、小説を読んでいるような感覚を味わえるのは最高です。

教科書には書かれていないことを発見する喜び

研究のきっかけは、誰もこれまでやっていないことができそうだったからです。もともと人がやったことを追っかけてやるのが好きでなかったのです。最初、植物のことは本当に知りませんでした。今話題の牧野富太郎先生のように植物の種類を全て記録するなどということは、最初から私自身はできないと思っていました。むしろ違う視点を持って、植物の種類を越えて共通な現象を知りたいという思いから研究をやりたいと思いました。
教科書では植物と動物は真核生物として一緒ですが、本当に同じかと思う方もおられるでしょう。見かけが異なりますが、不思議なことに遺伝情報の使い方、危機状況からの回避の際に見せる現象には動物との共通性が見えてきたのです。これは教科書には書かれていないことだと思うと喜びを感じました。研究は勉強とは別物と思っていて、苦しいと思ったことはありません。

国籍を超えた研究者の交流は「発見の共有」が共通言語

研究をしていく中で「世界中の誰もが気づいていないことと出会ったかもしれない」と感じた時は嬉しいです。とはいっても世界のどこかに同じことを考えたり、見つけたりする人が不思議にいるのです。その時残念と思うのではなく、自分が見つけたことを他人も見つけられるという一般性があったと喜びます。そのような人と学会などで会うことができます。そんな時、初めて会った人でも友人と出会ったような嬉しさ、楽しさ、幸福感を感じます。研究をする人も人間です。国籍を超えた研究者同士のフレンドリーな交流は、言葉の流暢さがなくてもできるのです。発見の共有そのものが共通言語なのです。

渡邊先生からのメッセージ

勉強が苦しい、なぜ勉強をするのか考えてしまうこともあるかもしれません。今すぐに役に立つかどうかを考えてしまうからかもしれませんね。受験のためだけでなく、その知識や努力自体が人生における強さ、血となり肉となるものと思ってください。受験が終わって大学に入ると途端に、勉強したことを忘れる方も多いのですが、あまりにもったいない。それを以後も活かせるのです。その努力で若さを維持してより新しい視点から世界を見続けることができると思います。

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