Interview
人の動きを制御するデザインの提案で、
安心・安全な空間を作る
東京都市大学 都市生活学部 教授
高柳 英明 先生
時代に即したインテリアの在り方とは
私の研究室ではいろいろなことをやっていますが、メインはインテリアです。インテリア、というと、インテリアデザイナーのイメージがあるのではないかと思うのですが、実はインテリアデザイナーというのは、だいたい建築デザイナーが兼業しています。というのも、例えば空調のダクトを出すかどうかは、建物を建てる段階から考える必要がありますし、うちの大学もそうですが多くの建物の床下にはいろんな配線が隠れていますので、 床の仕上げをインテリアだけで済まそうっていうのは難しい時代になっています。なので、設備と建築と一緒にインテリアを考えています。
最近は、主に「人流」、つまり人の流れ、人の動きをシミュレーションし、それを建築に活かす研究を行っています。具体的には「駅のコンコースを作り替えたいけど人流の制御をどうやっていいかわからないから教えてください」とか「キッチンカーを商売に導入したいんですけどいい案ありませんか」とかそういった企業のお悩みに答えながら、時代に即したインテリアの在り方を考え続けています。
建物には「デザインの理由」が必要な時代
日本は集団意識が強いわりに、それをコントロールする術を科学的にとらえてきませんでした。例えば、ヨーロッパには、町の真ん中にサーカスと呼ばれるような人が集まるための丸い広場があったりします。そこは、何人くらいが集まり、その際にどのくらい盛り上がるものなのかというのを何百年も前に考えて作られています。一方の日本は、そういった集まってワイワイする文化がほとんどなかったのですが、日本の都市も国際化の波に飲み込まれたことで、渋谷のスクランブル交差点のように、街の中心地に人が集うような動きが見られるようになりました。こうした流れもあり、特に新型コロナウイルスの流行後は、人の流れと空間の関係をちゃんと解析したいという企業が増えています。例えば駅のコンコースにどのような配置で柱が建てられているかを複数のパターンでシミュレーションすることで、駅での人の流れがどうなるのか、どこで衝突や事故が起きる可能性が高いのか、待ち合わせスポットをどこに配置すべきなのかが自ずと見えてくるのです。人が駅を使って「安心、安全かどうか」という視点で研究をしています。
また、東京オリンピックのために建てられた国立競技場は当初のデザインに反対運動が起こって今のものに変更になりましたが、人が建物を使って「安心、安全かどうか」という視点のような「デザインの理由」は、建物を建てる際に重視されるようになっています。人が安全に移動できるのか、逆に閑散と見えてしまうことがないか、など人の流れをうまく解析して、デザインに活かすことが必要になってきています。
研究のきっかけは「何をしたら良いか分からなかったから」
元々絵を描くのが好きで建築の道に進みましたが、研究のテーマを見つけることができずどうしたら良いかと思っていた頃に、「人の流れの研究をしてみたらどうか」と提案されました。とりあえず飛びついてみましたが、実はあまり面白いとは思えなかった。それでも続けていると10年おきくらいに研究にのめり込むきっかけとなるような声かけや出会いがあって気がついたら人流についての相談がたくさん来るようになっていました。
日本では人の流れをコントロールする、という研究はあまりされていないため、鉄道会社のホーム柵の設置、防犯カメラから人の動きを抽出して人の動きのモデル作成に活かす、お正月の百貨店での福袋争奪戦の混雑緩和の解決など様々な企業への提案や共同研究を今では行っています。最近では、自動運転車椅子が人混みの中でどうやったら安全に移動できるかというような研究にも取り組んでいます。
自分はもう目立たなくてもいい。学生の成長が一番のやりがい
正直なところ今はもう自分は目立たなくていいなと思っていて、学生さんたちの制作物だったりアイデアだったりを見るのが楽しみです。私の研究室の学生たちの成長や発想はすさまじく、私が関わった集合住宅の壁にドリルで穴を空けて(!)小さな窓枠を取りつけて、クリスマスのイルミネーションの作品を作った学生もいました。私が集合住宅を作った時よりも非常に評判が良く、自分では思いつかないようなアイデアだなと感心されられました。卒業生が案件をもって帰ってきて、在学生と一緒に制作をすることもあり、信楽焼の窯元になった卒業生が持ち込んだ信楽焼の破片をコンクリートに混ぜ込んで、ホテルの床材として活用する提案などを行っています。
「頑固者は苦労するが、最後に勝つのは頑固者」
自分の信念ややりたいこと、興味のあることを貫くのはとても苦労が多いかもしれません。時には曲げないと上手くいかないかもしれない。それでも、やってみたいことを見つけたら一心に取り組んでみてください。
やりたいことは何かしら自分の中に眠っているはずです。やりたいことをするために苦労するのが嫌だから、やりたいことがない、と言わずにチャレンジしましょう!
東京都市大学 都市生活学部
https://www.tcu.ac.jp/academics/urbanlife/urbanlife/
高柳先生の研究室
東京都市大学_高柳 英明先生
https://www.risys.gl.tcu.ac.jp/Main.php?action=profile&type=detail&tchCd=6001995000