Interview
アニメーションには表現の可能性がつまっている!?
作者の考えや価値観を垣間見る面白さ
多摩美術大学 美術学部 グラフィックデザイン学科 教授
野村 辰寿 先生
人形や粘土、砂や切り絵など……
様々なアニメーション技法について研究する
私は短編を中心とした様々なアニメーション技法の研究をしています。アニメーションと言えば、テレビや劇場、最近ではインターネットなどで目にするセルルック(いわゆる伝統的なアニメスタイル)のアニメーションを思い浮かべると思いますが、世界には人形や粘土、砂に切り絵などの様々な素材や描画技法を使ったアニメーションがたくさんあります。それらはオリジナリティあふれる独自の手法で制作されたものも多く、アニメーション表現の多様性を感じます。同時に美術的価値や新しい表現の可能性を追求した芸術作品もあります。そういった様々なアニメーション技法を研究しています。
テレビシリーズや劇場作品とは違って、短編アニメーションは個人や少人数で作るケースがほとんどです。それゆえに日記のようなエッセイから短編小説のような文芸作品まで、はたまた落書きのようなイラストから絵画や彫刻のような美術作品まで、その人にしか作れない、その人独自の考えや価値観が反映されています。そのような作品を通してその作者自身が垣間見える作品に面白さを感じます。これは作品の価値についての一般論のようなものですが。そういった作品の指導は、すべての学生一人一人が違うところが面白いです。最近は自身の作品があまり作れていないので、あまり偉そうなことも言えませんが、短編アニメーションはまだまだ表現の可能性がたっぷりある、発掘しがいのある領域です。
8ミリフィルムで
アニメーションを作った学生時代
この研究をしようと決めたのは、大学時代に観たロシアのアニメーション作家、ユーリー・ノルシュテインの諸作品を見たのがきっかけでした。彼の作法は切り紙(カットアウト)アニメーションと呼ばれ、バラバラのキャラクターのパーツ(手、足、胴体、頭、目、口など)を、少しずつ動かして撮影するという技法です。また複数枚のガラスを多層に組んだ撮影台で背景やキャラクターに遠近感や空間性をもたせるマルチプレーンという撮影手法で制作されています。そんな彼の作品の、絵画のような奥向きある画像の深さや動きの細やかさ、詩的な構成や心に滲み入るような叙情性に打ちのめされました。いつかはそんな作品が作りたいなと思い、多摩美術大学デザイン学科グラフィックデザイン専攻(現・グラフィックデザイン学科)でアニメーションの自主制作をはじめたのがきっかけです。私が学生当時は、今のようなコンピューターはなく、8ミリフィルムで描いた絵を直接撮影し、そのフィルムを編集して制作していました。今ではコンピューターやデジタル技術を使えば誰もが比較的簡単に映像が作れる良い時代ですが、よく似た表現や新鮮味のない表現になってしまいがちな部分もあるので、見たことないような表現に挑戦している作品には惹かれます。
人生は一回限りですから、自分がやっていて楽しいこと、一等賞が取れそうなことを学生時代に見つけ、その道を突き進んでください。楽しいことにかける時間や労力は、苦ではないはずです。得意なこと、楽しいことを仕事にできるように、自分の将来や志向に繋がる学校を真剣に選んでください。途中にどんな苦労や、時には挫折があろうとも、誰にも負けない努力をし続ければ必ず報われるはずです。楽しく頑張ってください!