Interview
文学作品から得られる視点は
私たちの「日常」や「社会」も変える
拓殖大学 政経学部 教授
村上 祐紀 先生
森鴎外が関心を寄せた歴史や
ドイツ近代化との関係を研究する
私が専門としているのは、明治から大正にかけての日本近代文学です。中でも、森鷗外に関心をもって研究をしています。森鷗外は「舞姫」などドイツ留学中の体験を基にした初期小説がよく知られていますが、私が対象としているのは、鷗外が晩年に取り組んでいた歴史小説・史伝と呼ばれるジャンルです。明治から大正へと時代が変わっていく中で、鷗外がこの国の歴史に関心を寄せたことに興味を覚え、史伝を読み解きたいと思うようになりました。近年では、そうした鷗外の歴史への関心はドイツで学んだものが多いのではないかと考え、ドイツの近代化との関係についても研究しています。
近代文学研究から広がる
豊潤な世界を味わう
興味を持ったきっかけは大学時代、日本近代文学の授業の中で、谷崎潤一郎や芥川龍之介の作品を読んだことです。もともと本を読むことは好きで、古典文学など漠然と文学に対する関心はあったのですが、授業を通して近代小説の中に様々な仕掛けがなされていることに気づくと、一人で読んだ時とは全く異なる読み方・見え方を学ぶ面白さを感じました。また、近代文学は同時代の社会背景から生まれてきたものだと気づいた時、あらゆる分野にもつながり得る、豊潤な世界が広がっていることにも魅力を覚えました。
「文学は時代を映す鏡」
文学を通してその時代の社会状況を学ぶ
文学は一見すると閉ざされた狭い世界のように思われますが、決して日常とかけ離れたものではありません。社会や私たちの日常を取り巻いているものの歴史性を考えてみることによって、作品の見え方が全く変わるということがあります。そして、同時に社会の見え方も全く変わります。例えば、鉄道は私たちにとっては当たり前に存在するものですが、明治の人々にとっては新しいものでした。そうした新しい体験がもたらした功罪が、作品の中には様々な形で描かれています。それを作品から読み取ることで、私たちの日常の見え方も変わってくるはずです。
私は大学で教養科目として文学を教えていますが、講義では、各学科の専門の学問も文学と無関係ではない、ということを意識して伝えています。たとえば法学・政治学・経済学などの学問は、すべて日本が近代化する過程で学問として成立してきたものです。そのため、日本の近代化の歴史と無関係ではありません。近代文学も同じく、日本が近代化する過程で作られたもので、「文学は時代を映す鏡」とも言われるように、近代のエリートたちが鋭い眼差しで捉えた同時代の社会状況が刻銘に描かれています。そうした状況を文学や歴史を通して学ぶことは、専門の学問の成り立ちを考える上でも非常に重要なのです。
大学の学問は、これまでの「答えのある勉強」とは全く異なるものです。学問には答えはなく、自分で問いを立て、答えを見つけていかなくてはいけません。自分の考えを言語化する作業は難しく感じるかもしれませんが、他のものでは絶対に味わうことのできない知的な楽しみでもあります。こうした学びの中で出会った大学の先生や友人たちとは、それまでの付き合い方とは異なる、新しい人間関係を築くことができるはずです。
また、大学での学びの特徴として、教養科目が学べることが挙げられます。自身の専門だけではなく、教養科目を幅広く身につけることによって、様々な視野を獲得することができます。学ぶことによって得られる世界の広がりを、是非体験してください。