上智大学 総合人間科学部 教育学科 酒井 朗先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

すべての子どもに等しく
質の高い教育を保障するには?

上智大学 総合人間科学部 教育学科 教授
酒井 朗 先生


急激に変容する教育をめぐる実態に
大きく揺らぐ学校教育

子どもが学校に通うようになったのは明治時代以降で、まだ150年くらいの歴史しかありません。最初の頃は学校に通わない子どもも多く、戦後、新制中学校が出来た時も、当初は多くの生徒が学校を休みました。社会の中で学校に通うことが受容されるまでには相当な時間がかかったのです。
学校教育は今、大きく揺らいでいます。2021年度に不登校とされた小中学生は過去最多の24万4940人となっており、この10年間急増しています。学校を休んでいる子どものなかには、フリースクールやオンラインの教育サービスなど、学校以外の学びの場を利用する人もいますし、中学校卒業後に通信制の高校に通う生徒も急増しています。
こうした中で、私たちは子どもたちの教育をどのように考えればいいでしょうか。海外では、家庭で子どもを教育するというホームスクーリングの制度を認めている国も多くありますが、日本政府は、保護者は子どもを学校に通わせなければならないという就学義務制を採っています。その一方で政府は、外国籍の子どもには法律上就学義務は課されていないとの立場から、彼らの教育について十分な取り組みをしてきませんでした。

今求められている対応は何か
子ども全体をとらえた視点で考える

教育社会学とは、社会の変容が教育にどのような影響を及ぼしているのかを追究する学問です。私は「すべての人に対して等しく質の高い教育を保障するにはどうしたらいいか」という問題関心から、現在の教育の動向を分析し、今求められる対応策について検討しています。今の保護者や子どもが、学校に通うことをどのように感じているか、どこに負担や困難を感じているか、不登校の子どもは学校以外の場や家庭でどのような思いで過ごしているか、などをインタビューやアンケートで調査しています。それと同時に、不登校の子どもへの支援のための各自治体の取り組みにも、アドバイザーなどの役割をお引き受けしています。
私がこうした問題を検討する上で大切にしているのは、問題把握において我々が自明としていることを繰り返し見直すことです。不登校だけでなく、病気やそれ以外の理由の欠席も含め、年間30日以上学校を欠席している状態を長期欠席と言いますが、2021年度の長期欠席の総数は41万3750人に達しました。不登校の人数よりも17万人も多いのです。しかも、この統計には、そもそも学校に就学していない外国籍の子どもなどは含まれていません。私はそれらの子ども全体を捉える視点を持つことが大切だと考え、「学校に行かない子ども」として包括的に捉えるべきだと提案しています。このように見方を変えることにより、人々が気づかずにいる問題にも光を当てて、抜本的な対応を考えていくことを重視しているのです。

願うのはすべての人の「ウエルビーイング」の向上
身体的・精神的・社会的に良好であるために

大学に入学したときは、社会変革や困難を抱える人々の支援のために、法律家や官僚になろうと何となく考えていました。しかし、大学入学後に始めた母子生活支援施設の子どもの支援活動に熱心に携わるなかで、教育学や社会学に関心を持つようになり、途中で進路を変更して教育社会学を専攻しました。私が不登校などの学校に適応できずにいる子どもの問題に関心を持つようになったのは、私自身が親の仕事の都合で転校したり、進学の際にしばしば居心地の悪さを感じたりしてきたからだと思います。今の問題関心はそうした自分自身の経験やその時に抱いた思いから繋がっていると感じています。
今の研究の面白さはいろいろありますが、1つには、問題の所在についての常識的な見方を不断に問い直していく点にあります。実際に保護者や子ども、先生方などに直接お会いして、学校や教育にまつわる経験談を伺ったり、様々な教育の現場に伺ったりすることなどは、自分自身の認識を見直して視野を大きく広げてくれますし、多様で複雑な社会の断面を見ることもできます。さらに、そうした調査を通じて得られた知見をもとに、自治体の職員の方や各学校の先生方とよりよい制度作りに向けて検討し、実際に企画を立ててプロジェクトを進めるお手伝いをすることも、この仕事の醍醐味だと感じています。
身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを指す「ウエルビーイング」という概念があり、今その実現が求められていますが、私は、すべての人々のウエルビーイングが高まることを強く願って研究をしています。

酒井先生からのメッセージ

教育という領域は、すべての人が経験しているものです。皆さんが学校で経験していることすべてが、教育学や教育社会学の研究に繋がります。もちろん、教育以外の分野の研究も、それぞれの人の生活や経験に深く関連しています。そう考えれば、今の生活の中で日々感じたり考えたりしていることが、皆さんの将来に大きく関わってくると思えるのではないでしょうか。ご自身の経験を振り返って深く考えてみると、楽しいことばかりではなく、辛いことや大変なこともあったでしょう。いろいろ迷う場面も多いことと思います。そうした様々な経験にしっかり向き合い熟考することが、大学での学びを深めることにつながります。

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