昭和大学 発達障害医療研究所 太田 晴久先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

発達障害のある人が特性を活かして活躍できる社会のために
治療と社会づくりの両面を整える

昭和大学 発達障害医療研究所 准教授
太田 晴久 先生


「何もしていない時」の脳の動きから発達障害の特性を考える

私は精神科の医師として日々外来診療を行いながら、発達障害に関する研究を行っています。
発達障害というのは、昔は教育や本人の努力の問題だと解釈されていたのですが、現在は脳機能に関係していることがわかってきました。とはいえ、脳のどこに原因があるのかはまだまだわからないことが多いので、それを知るための手段として脳の機能まで見られるMRIを使って、発達障害の人の「何もしていない時」の脳の特徴を明らかにしていくという研究をしています。何もしていない時といっても、もちろん脳は活動しています。この活動の仕方や「ここが活動したら次はここが活動するようになって……」というような活動の連結が、発達障害の特性を生み出している要因の一つではないかと考えられています。そのため、AIを使って安静時の脳の活動の繋がりを解析して学習させデータを取っています。
また、MRIを撮影しながら何かを考えると、脳のどこが活動しているかもわかります。そこで、活動している場所をフィードバックするニューロフィードバックを行うことで、脳の活動をコントロールし「脳の機能を変えることで特性を変えられないか?」ということも研究しています。まだまだ診断も治療も臨床応用の段階には至っていませんが、「訓練をすることで脳がこう変わると動きもこう変わるんだよ」と患者さんに提示ができるようになればいいなと思っています。

苦手を克服するために効果的なプログラムとは?

画像研究以外にも、デイケアプログラムの研究も行っています。デイケアプログラムとは、同じ困りごとを抱えている人が集まって、スタッフを交えて発達障害について勉強したり、苦手を克服する練習をしたりするものですが、どういうグループワークに効果があるのかを研究しています。数年前に開発したグループワークの中には、効果が認められて保険診療の枠組みでできるようになったものもあります。同じ困りごとを抱えている人たちが集まって練習することをピアサポートというのですが、当事者同士で練習することで適応力を上げていくことができます。

人間は誰しも「特性」があり
その特性が強い人と弱い人がいる、というだけ

ここまで治療に関する研究の話をしてきましたが、私としては、発達障害=本人が治療するべきものという考えには誤りがあると思っていて、人間には「特性」があるという前提で社会的な障壁を無くしていくことも非常に大事になります。例えば最近はコミュニケーション力が重視されていますよね。どの企業も採用にあたりコミュニケーション能力が高い人や協調性がある人を求めますが、それはちょっといびつな面もあるなと思っています。そのような社会では、例えば、一つのことに没頭してコミュニケーションが苦手という特性がある自閉スペクトラム症(ASD)の方が受け入れられなくなってしまいます。でも、本当はその特性を特技として活かして仕事をし、生活していくことができればそれでいいのです。
最近は障害に対してスペクトラムという言い方をしますが、スペクトラムというのは連続という意味です。発達障害の人とそうではない人に世の中が二分されるかというとそうではなくて、誰しも多少なりとも発達障害的な特性は持っているのです。それが強い人もいれば弱い人もいるだけで、決して特殊な人がそこにいるというわけではなく、程度の問題であるという認識が社会全体で必要です。最近はニューロダイバーシティという言葉も使われています。特性があることで本人の困り感が強い場合は、困り感を解消する方法の一つとして治療という手段はありますが、特性のある方も含めた個人個人が自分の力を最大限に活かして社会参加できるような多様性のある社会づくりに貢献できればいいなと思います。

海外で活躍する研究者も会ってみると普通の人
終わろうとしていた研究の道で留学を決意

誰かの役に立っていることを実感できるような仕事がいいなという思いがあり医学部進学を考え始めました。当時、医者といえば身近な内科クリニックの先生のイメージしかなかったので「自分もそういうふうになるんだろうな」と思っていたのですが、精神科の病院実習の際に、患者さんとオセロをしたり、話をしたりしたのが結構面白くて、人を見て考えるのが精神科医なのだなと感じ、それをきっかけに精神科医になろうと思いました。研究医になろうと思ったのは「医学博士を持っていたらかっこいいかも」という理由でした。博士号が取れて、研究はもう終わりにしようと思っていたときに、海外の学会に参加して、海外で活躍する研究者と交流する機会がありました。その時まで「研究者は自分とは別世界の特殊なスーパーエリートで、元々志が高い人がなるものだ」と思っていたのですが、実際に接してみるとある意味普通の人で、自分の延長線上にあるような感じがして「あ、自分も研究者になれるんじゃないかな」と感じ、留学を決意しました。周りには驚かれましたが、意向は変わらず、それ以降研究に力を入れるようになり今に至ります。

太田先生からのメッセージ

学生を見ていると、自分の潜在能力を過小評価している人が多いように思います。得意・不得意やできる・できないはあるものですが、潜在能力を過小評価して、自分を規定しすぎる必要はなくて、もし「本当はそういうことやりたいんだけど」とか「本当はそれにちょっと興味あるんだけど」と思うことがあったら、一旦心のリミッターは外してみるといいと思います。私も、留学して研究したいと言い始めたときは「お前何言ってんだよ」と皆に笑われたんですよ。でも、やってみたら別になんてことはなく今に至ります。他人からの目を過剰に気にして、本当にやりたいことをあきらめる必要はありません。特に若いうちであればチャレンジして失敗したっていいんじゃないのと思います。
発達障害の特性があって悩んでいる方には、特性の存在自体は悪ではないと考えてほしいです。特性との付き合い方がうまくなってくれば困りごとも減ってきますし、逆に特性をうまく使うことによって自分の長所にできるわけですから、特性自体の存在を否定して自分を否定することはしてほしくないなと思います。

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