Interview
過去の自然環境の謎を解き明かし
未来の研究・防災に貢献する
専修大学 文学部 教授
苅谷 愛彦 先生
大昔に起きた斜面崩壊を
現地調査によって記録
私はこれまで、日本アルプスや南米アンデス山脈などをフィールド(調査現場)として、これらの山々で歴史時代や地質時代(地質時代区分では約13万年前から現在までの更新世後期・完新世を中心として)に起こった大規模な斜面崩壊の地形・地質を調べてきました。現場に入る前に、地形図や航空写真、人工衛星の画像などを解析して崩壊地の見当をつけ、現場に入れば、地形の規模や形態の特徴、また崩壊でもたらされた地層の特徴を記録します。崩壊は川をせき止めて湖を作ることがあるので、湖が残した地形や地層も調査対象にします。また崩壊に巻き込まれた樹木の化石を探して年代を測定したり、崩壊の前後に飛来した火山灰を地層の中に探したりして、崩壊が起こった時期を絞り込んでいきます。
地形や地質のタイムマシーンで
過去の環境へ旅をする
私が地形に興味をもつようになったのは小学生の頃です。自転車で少し離れた町へ出かけるとき、坂や川を越えていくことに気づきました。そして小学校の廊下に飾ってあった地形模型が、そんな自分の体験をそのままミニチュアで再現していることに感動したのです。「生まれ育った東京は、こんなにも凹凸のある場所なんだ」と感動すると同時に、なぜこうした凹凸ができてきたのかに興味が湧きました。
地形や地層に関する知識を深めると、単なる空想ではなく科学的根拠にもとづいて、崩壊が起きたときの山の風景や環境を復元でき、それがとても面白いと感じています。地形や地質というタイムマシーンで過去へ旅することができるのです。これはどんな推理小説を読むよりも楽しく、高度な謎解きでもあり、わくわくします。
大規模な崩壊の原因や頻度、
地形形成への影響を明らかに
この研究の意義は大きく見て2つあります。1つは、起伏の大きな山地の地形が形成される際、崩壊がどのように寄与しているのかを明らかにすることです。地形学は生まれて200年程度の新しい学問分野で、研究者が少ないこともあって地形の発達過程が解明されていない場所もたくさんあります。特に調査が大変な山地の地形などは良い例でしょう。つまり、この研究は地形学の基礎部分に貢献できるわけです。
もう1つは、防災の観点から大規模な崩壊の原因や頻度を明らかにすることです。日本列島は数百年~数千年ごとに強い地震に見舞われます。そのような地震が過去にどこで、どの程度の崩壊をひき起こしたのかを復元すれば、将来起こるであろう同様の崩壊に備えることができるのです。
希望する学校への合格は目標の1つにはなりますが、もっと重要なのは合格の先に大学生活が待っているということ、大学に入ってから、何をどのように学ぶかということです。そのためには、自分が学びたいことや将来就いてみたい職業をイメージして、能動的・主体的に4年間を過ごせるよう、中・長期的視野をもって受験を乗り越えてほしいと思います。