佐賀大学 理工学部 海野 雅司 先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

最先端の研究の醍醐味は
世界初の発見で歴史に残るやりがいと
人類に貢献できる開発へと繋がる期待

佐賀大学 理工学部 理工学科 教授
海野 雅司 先生


ラマン光学活性分光で物質の構造情報を知る

私たちの研究の基礎であるラマン分光法では試料にレーザー光を照射し、その際の散乱光を観測します。通常、散乱光は入射光と同じ波長(同じ色、即ち同じエネルギー)の散乱光が観測されます。しかしごく一部の散乱光は入射光と異なる波長となりラマン散乱光と呼ばれます。入射光とラマン散乱光の波長の違い、即ちエネルギーの違いは試料を構成する分子の振動運動を反映しています。このため試料に光を照射して観測される散乱光を調べることで分子振動に関する情報を得ることができます。分子振動は分子構造を鋭敏に反映し、分子構造が変わると分子振動も変化します。従って、ラマン散乱光を調べることで物質を構成する分子の種類や量を計測することができます。
私たちの研究の目玉は、ラマン散乱を基礎技術として用いた手法である「ラマン光学活性分光」です。高校の「化学」で鏡像異性体について勉強すると思いますが、この鏡像異性体を区別できる手法がラマン光学活性分光です。私たちの体を構成する主要成分の一つにタンパク質がありますが、その構成要素がアミノ酸です。アミノ酸はL体とD体という鏡像異性体が存在し、自然界には基本的にL体のみが存在することが知られています。鏡像異性体はラマン分光を含む通常の分光法では区別することができず、特殊な測定法を用いる必要があります。ラマン光学活性分光は円偏光という特殊な光を用いることで鏡像異性体を区別することができる方法です。
このラマン光学活性分光は分子の立体構造などの豊富な構造情報を与える強力な手法ですが、従来の装置では着色した色素分子には応用できませんでした。私たちは試料に照射するレーザー光の波長(即ち、色)を通常の可視光から目では見えない近赤外光に変える工夫をすることで色素分子にラマン光学活性分光を応用することに世界で初めて成功しました。実は色素分子は自然界に数多く存在し、例えば目の網膜にあり視覚を司るタンパク質はロドプシンという光センサータンパク質で、色素分子の代表例です。これ以外にも哺乳類や動物から植物や藻類など多様な生物がロドプシンのような光センサータンパク質(より一般には光受容タンパク質)を持っています。私たちは独自開発してきた近赤外ラマン光学活性分光をさまざまな生体関連分子に適用し、タンパク質の機能を分子構造との関係から解明しています。

企業と協力し陶磁器の産地同定や海苔の品質評価法開発も

生体関連分子に関係する研究の他、陶磁器の産地同定や海苔の品質評価法の開発などの研究にも取り組んでいます。佐賀県の有田町は日本における磁器発祥の地で、有田焼や伊万里焼という名称で知られています。陶磁器は遺跡などから出土することも多く、考古学的な研究において重要な役割を担っています。しかし考古学で行われるのは陶磁器の形状や模様、発掘された場所などに基づいた考証であり、科学的な分析に基づくものはほとんどありません。そこで私たちはラマン分光を基盤とした陶磁器の産地同定法の開発に取り組み、特に有田地区で発掘された陶磁器について、その原料の違いなどを示す結果を得ています。
また、佐賀県は海苔の国内最大産地です。海苔は流通する過程において、官能検査により等級が付けられ、消費者へと届けられます。しかし官能検査は検査員の目視による色や艶を基準とした評価であるため、検査員や生産時期、産地により評価が異なり統一的な基準がない状況です。そこでラマン分光法を用いた海苔の品質評価法の開発について研究、海苔のタンパク質成分である光合成色素を分析する手法を開発し、実用化を目指しています。
これらは、所属大学の佐賀県有数の地場産業との関係でお声がけいただき開始した研究です。陶磁器の研究は佐賀県窯業技術センターとの共同研究、海苔の研究は農学部との共同研究です。陶磁器も海苔も私の“専門外”の分野ですが、今までに培ってきたラマン分光という強みを活かした研究をしたいと考え取り組んでいます。

「世界初!」の可能性があるワクワク感

研究の面白さ・やりがいは世界初の新しい発見など、何か成果が得られたときに科学研究の歴史に残ることができる点だと考えます。私たちの研究では分子分光学を専門としているので、新しい測定方法の開発なども発見の一つになります。私の研究はいわゆる基礎研究であり、すぐに人類の生活に貢献できる、商品開発のような研究ではありません。しかし、私たちの発見が後に人類に貢献できる開発などに繋がることを期待して研究を続けています。学生の皆さんにも、是非とも「世界初!」という最先端の研究をして、その醍醐味を味わってもらい、研究を楽しんでもらいたいと思っています。

海野先生からのメッセージ

高校までの授業は座学が中心で、先生の話を聞いて知識を得ることが主な勉強のスタイルになると思います。大学では、学年が上がるに従って実験・実習や卒業研究など、より能動的に専門的な内容を自ら学ぶ機会が増えてきます。これら実験・実習や卒業研究をする上では、授業で学んだ知識も重要ですが、それだけでは上手くいかないことが多いものです。実際、“普通の”座学中心の授業で成績が良い人が、必ずしも実験・実習や卒業研究で力を発揮する人とも限りません。言い方を変えると、それほど成績が良くなくても、卒業研究をすると素晴らしい成果を出す学生さんを何人も見てきました。従って理系の場合は、本番は卒業研究からです。大学受験における成績に一喜一憂せず、是非大学で最先端の研究に携わって欲しいと思います。

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