琉球大学工学部 工学科 エネルギー環境工学コース 瀬名波 出先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

画期的な「養殖」でめざす、環境問題の解決と平和な未来

琉球大学工学部 工学科 エネルギー環境工学コース 教授
瀬名波 出 先生


新しい海藻の養殖技術の開発
ヒントとなったのは、ある「家電製品」

研究テーマで一番力を入れているのは「海藻類の高速大量陸上養殖方法の開発」についてです。私の所属は工学部ですから、一見すると「海藻の養殖」とは縁がないのではと思われるかもしれません。私の専門分野は「熱移動」に関する分野で、例えばエアコンや冷蔵庫の伝熱効率を上げるために、熱と流体の関係を明らかにするような研究をしています。一般的に何か熱いものを冷やそうとする場合、そのものに流れを当てるのが効果的です。暑いときに扇風機で風に当たると、何もしないときよりはるかに涼しく感じるのはよくご存知でしょう。それは、体に風という流れを当てることで体表面からの熱の移動が促進されるからです。反対に、冬場寒い時に暖かい空気の流れを体に当てると、効果的に温めることができます。このように流れを使って熱移動を促進させることを“熱伝達率の増大”と言います。
さて、話を海藻養殖に戻します。海藻は、周りの海水から栄養分や光合成に必要な二酸化炭素を吸収しながら成長します。海藻がよく育つには、これら栄養分や二酸化炭素がより多く吸収される必要があります。このように海水に溶け込んでいる栄養分や二酸化炭素などの物質が海藻表面から吸収される現象を“物質伝達”と呼んでおり、それを促進させることを“物質伝達率の増大”と言います。
先ほど説明した熱伝達率とこの物質伝達率には相似性があり、物理的な仕組みは同じです。暖かい風でものを温める、すなわち熱を吸収させたことと同じように、栄養分や二酸化炭素が多い海水の流れを作れば、海藻に吸収させる物質を増やすことができるということになります。最近では熱移動技術が向上し、一昔前と比べてエアコンや冷蔵庫の性能は2倍以上良くなりました。熱の移動と物質の移動が同じ仕組みなら、このエアコンや冷蔵庫の熱移動を向上させた仕組みを海藻養殖に利用できるのではないかというのが初期の発想です。実際に二酸化炭素を多く溶かし込んだ海水の流れを海藻に与えることで、通常の養殖に比べて2~5倍の成長促進効果を得ています。
このように工学研究の手法や結果を海藻養殖に用いることで、これまでにない画期的な養殖手法の開発を行っています。

自然と共生できるエネルギー技術をめざして
影響を受けたあの「アニメ」

子どものころに観た、宮崎駿さんの「未来少年コナン」や「風の谷のナウシカ」の影響もあり、エネルギーやそれを使ったあとの廃棄物などの処理は、自然と共生する環境にやさしい技術であるべきだと感じていました。さきほどの海藻養殖の研究も、そのような自然と共生できるためのカーボンリサイクル(二酸化炭素の回収と利用の循環)というテーマから生まれてきたものです。
現在私が行っている研究の発端となったのは、火力発電所等の大量に二酸化炭素を排出している排ガス中から、二酸化炭素を回収するという研究でした。当時開発した技術を簡単に説明すると、まず、廃ガスをボンベに回収し、そのボンベの中に海水ミストを吹きかけます。すると、その海水ミスト中に排ガスの中の二酸化炭素が溶け、回収できます。この方法で排ガス中の99%以上の二酸化炭素を回収することが可能になります。
その後、二酸化炭素を溶かした海水で海藻を育て、その海藻からバイオ燃料を作れば、カーボンリサイクルが達成できると考えました。これらの一連の技術のなかで最も困難な課題が海藻養殖の効率化だったので、現在その研究に取り組んでいるというところです。

食料とエネルギーの研究を通じて
戦争のない世界が作れるかもしれない

現在進めている海藻の効果的な養殖技術の開発という研究が進むと、海藻養殖がこれまで以上に盛んになります。例えば、沖縄県で有名な海ぶどうが全国どこのスーパーでも身近になるかもしれません。海藻を餌にした魚や貝類の養殖も盛んになるでしょう。さらに大量の海藻類から安価なバイオ燃料が作れるようになると、カーボンフリーのエネルギーを作れることになります。
人類の歴史は食料とエネルギーの争奪の歴史です。もしこのように食料とエネルギーの両方が作れるカーボンリサイクルシステムができると、いつか食料とエネルギーの奪い合いがない世界、すなわち戦争がない世界が訪れるかもしれません。自分の研究が世界平和にも貢献するかもしれないと思うと、単なる工学、水産学以上のやりがいを感じます。

瀬名波先生からのメッセージ

これからの時代は1つの学問分野だけで完結できる課題はなく、複数の分野が複合して課題解決に向かう時代だと感じています。私の研究においてもはじめは熱流体工学だったものが、環境工学、水産学、そして経済に関してまで複合的に絡んでいます。これから進学する皆さんには、いろいろな分野に興味を持ってほしいと思います。それは難しい教科書を読めということではなく、ネットやテレビでのニュース等で面白そうな話題があれば気にかけてほしい、できればそのことを自分なりに調べてほしいということです。きっかけはマンガでも構いません。私もマンガが大好きで、子どもの頃からたくさん読んできました。マンガから知った知識やアイデアも数多くあります。もちろん自分自身の専門分野を持つことは大事です。自分の専門分野を持つこと、そして幅広い興味を併せ持つことで、将来、今は思いもよらないような魅力的な課題に向き合うことになるでしょう。

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