Interview
ワイヤレス給電の実用化で、電源ケーブルのない未来を作る
名古屋工業大学 電気・機械工学教育類 電気電子分野 准教授
平山 裕 先生
大正時代から100年以上変わらない電源コンセント
私は、ワイヤレス給電(充電)の実用化へ向けた研究をしています。皆さんが使っているスマートフォンやタブレット端末は、インターネットやイヤホンへの接続は全てワイヤレスになっています。しかし、充電のためには線を接続する必要があります。最近はスマホも「非接触充電」に対応していますが、非接触充電器をスマホにくっつける必要があり、そこまでは有線です。無線通信の技術の進歩はめざましく、たかだか10年前のスマホ(3G対応)も、現在では使えなくなっています。一方、皆さんが普段から使っている電源コンセントは、100年以上前の大正時代から変わっていません。スマホのみならず、家電製品や電気自動車への給電・充電もワイヤレスにして、「昔は電源ケーブルなんてものがあった」という未来を作る研究をしています。
通信工学と電力工学の隙間にある新しい学問領域
私は、もともと通信用のアンテナの研究をしていましたが、2008年頃に、ワイヤレスで電力を伝送できる可能性を示した論文が公開されたのをきっかけに、この分野に参入しました。「新しい学問領域をつくる」という研究の醍醐味を味わえる可能性に気づいたのです。
「電波で情報」を送る技術は通信工学として、「電線で電力」を送る技術は電力工学として、100年を超える歴史を経て確固たる学問体系が構築されています。それ故、それぞれの学問体系は、互いに独立した価値観・前提条件を築き上げてきました(たとえて言えば、野球とサッカーの関係の様なものです。片方の常識は片方の非常識であり、野球選手とサッカー選手が同じ試合に出ることはありません)。
矛盾する2つの理論を統一し新しい理論を作り上げる
そこに登場した「無線電力伝送」という技術は、両者の技術の狭間にあり、その本質的な理解のためには、通信工学の考え方と電力工学の考え方を矛盾無く包括的に説明できる理論体系を作る必要があります。(たとえて言えば、野球とサッカーのルールを混ぜた新しい種目ができ、元野球選手と元サッカー選手が、同じルールで試合をしているようなものです)。「一見矛盾する」理論を、その前提条件を明らかにすることにより矛盾なく統一する理論を作り上げることに、第一の面白さがあります。さらに、作った理論に基づき、実際に回路を作成して、より遠い距離、より大きな電力を送れることを確認して、理論が形になることを実感できることも、面白さの一つです。
将来の技術者としての仕事のためには、皆さんが今勉強している数学・理科が基礎となることは言うまでもありません。しかし、技術者というのは、「知識を使う」仕事ではありません。「新しい知識を作る」仕事なのです。そのためには、解決すべき社会の問題と制約条件を定め、問題の本質を見極め、解決のための仮説を立て検証することを繰り返す、という能力が必要不可欠です。この力の基礎となるのが、受験科目で言えば国語と社会です。「国語力」とは「作文力」ではありません。思考を言語化し、抽象化して問題点を発見するために必要なのです。技術と社会は密接な関係にあり、技術が社会にもたらす影響、社会が技術に要求するものを見極める能力が必要なのです。理系科目以外の教科にも、単に大学合格のためだけの勉強と考えず、その先を見据えて、積極的な関心を持ってみてください。それが、大学合格後の人生を左右します。
名古屋工業大学 電気・機械工学科 電気電子分野/電気電子工学プログラム
https://elemech.web.nitech.ac.jp/curriculum/denki/
ワイヤレス充電(ワイヤレス給電)の仕組み 電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン
平山 裕先生執筆
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bplus/15/1/15_4/_article/-char/ja/