宮崎大学 農学部 森林緑地環境科学科 多炭 雅博先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

限られた世界の水資源を賢く使って
より良い地球環境を次世代へ

宮崎大学 農学部 森林緑地環境科学科 教授
多炭 雅博 先生


人工衛星×気象データで地球の水分状態を知る

私は、人工衛星を使って、地球上の陸地から、いつ・どこで・どれだけの水が蒸発散しているか? を推定する研究を行っています。JASMES MAP Monitorというウェブサイト(https://www.eorc.jaxa.jp/JASMES/index_map_j.html)の「蒸発散量」という項目が、共同研究者達と一緒に取り組んだ研究成果です。



蒸発散量は、人工衛星から直接見えるわけではありません。そのため、人工衛星から見える、地表面の温度や植物の観測データを、日射や風や降水量などの気象データと上手く組み合わせて、蒸発散量を推定するのです。
地表面からの水の蒸発の原理としては、蒸発するための水と、水を蒸発させるエネルギーの両方が必要で、蒸発のスピードは大気の状態なども関係します。エネルギーが豊富な夏の晴れた日に、地表面付近や植物の根付近に水分がたくさんあれば、たくさん蒸発散します。私は主に地表面の温度を使い、晴れた日の日中、乾いた地面は熱く、湿った地面は冷たい、という原理を利用して、人工衛星から見える地表面温度から、人工衛星からは直接見えない水分状態を把握するのです。
人工衛星は膨大な量の地表面観測をしており、1枚1枚の画像データを人間が確認しながら処理することは到底できません。そこで、蒸発散量を推定するアルゴリズムを作って、ビッグデータを自動処理し、もし処理に不具合や疑問点があれば、その記録も自動で行います。また、推定した蒸発散量データがどの程度の信頼性を持っているのか、地上の観測データと比較して精度検証も行っています。

蒸散量マップが環境問題解決の科学的根拠に

このようにして得た蒸発散量マップは、いったい何の役に立つのか? その利用方法を提案することも私の研究対象です。例えば、農業に水を使いすぎて自然環境や生態系が劣化している地域では、データを上手く使うことで「どれだけ水を使いすぎているのか?」がわかります。データを提供できれば、あとは政治や行政や地域住民が「ではどうすれば水利用の持続性が保たれるのか?」について、科学的根拠をもとに考えることができます。地球温暖化による気候変動で干ばつも増えていると言われますが、蒸発散量マップは干ばつの影響評価にも使えますし、被害を緩和する水利施設の設計を考えるのにも役立ちます。世界のいろんな地域で環境と調和した持続的な水利用ができれば、水の面では世界が少し安定して、より良い地球環境を次世代に引き渡せるのでは? と考えています。

手軽な解決策はなくとも将来に大きな可能性

私が高校生だった1990年前後は、環境問題が大きくクローズアップされた時代で、テレビでも地球の自然環境が危ない、といった特集や報道番組がよくありました。そこで私も自然環境に興味を持ち、大学で農学部に進学しました。中でも水資源の研究をしようと思うきっかけとなったのは、大学院の修士課程在学中に1年余り、スリランカの「国際水管理研究所」という国際機関で客員研究員として農業用水の研究をしたことでした。水は農業だけに使われるわけではなく、また無限にあるわけでもないので、地域の水環境を把握できれば、より賢く水を使えます。このような研究は水文学や水資源学と呼ばれ、とても面白かったです。その後、地下水を学びたい気持ちもあったのですが、「地下水は地域性が強いので一つの地域の地下水を把握しても別の地域の地下水問題を解決できないが、気象は理論が世界共通なので、一つ良い数理モデルを作れば世界中に適用できて面白いよ」という助言を教員にいただき今の研究に至りました。 私の研究は課題解決型であり、答えのないものに自分なりの最適解やお勧めの最適解を提案する行為だと思っています。だからクリエイティブで面白い。世界人口の増加や気候変動の影響で、地球の陸域の水資源は今後ますます逼迫してくると予想されています。なかなか手軽な解決策は無いのですが、自分の専門を活かして良い研究をすれば、他の研究者もそれを参考にしてくれるかもしれません。そして、いろんな人の研究の積み重ねが大きな力となって、世界の水利用の持続性が達成できるかもしれない。そんな大きな可能性を感じられるのが、今取り組んでいる研究の魅力です。

まるで壮大なゲーム、リアルな世界を自分の手で変えていく

また、研究には壮大なゲームのような面白さも感じます。「あつまれどうぶつの森」というゲームで、自分の島をどのようにクリエイトするかを考えるように、自分の知識や経験や研究力を活かして、世界の水問題をどのように上手く着地させていくかを考える。バーチャルではなくリアルな世界を自分の手で変えていける(かもしれない!)のです。さらに、研究者として「この分野では世界一」というほど詳しくなると、「自分がわからなければ、他の誰もわからないだろう」という感覚も楽しいものです。「わかるとは何か?」という感覚自体も変わってきて、物事を本当にわかるのは難しいことや、一つの正しい答えが常に存在するわけではないことがわかる。研究を通して、そういう視点が獲得できるのもまた楽しく、人生に深みを与えてくれている気がします。

多炭先生からのメッセージ

大学はとても面白いところです。多数いる教員は特定分野を深く知る研究者。そんな専門分野のショッピングモールのような場所で学べる機会は大学くらいしかありません。また大学には、たくさんの人との出会いや交流など、学問以外の魅力もいっぱいです。私生活でも自由がグッと増えるでしょう。自分の責任で、自由に自分の将来のための知識や経験を得られる場が大学なのです。どういう未来を、自分の裁量で作っていくのか? 可能性はたくさんあります。学問や人との出会いによって、今現在は考えもしないような新たな可能性が急に出てくることもあります。希望大学への入学はあくまで人生の通過点。楽しい未来を想像しながら、息抜きもしつつ、受験勉強に取り組むと良いと思います。ぜひ頑張って、皆さん希望の進路に進んで欲しいと願っています。

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