京都府立医科大学大学院 医学研究科 家原 知子 先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

早期発見と最適な治療で小児がんの子ども達を健康な大人に

京都府立医科大学大学院 医学研究科 小児科学 教授
家原 知子 先生


年間2,000人以上の子どもが小児がんに

私は、小児がんの一種「神経芽腫」という希少な疾患について研究しています。小児がんと聞くと、子どもにも“がん”があるのかと驚かれる方がいますが、日本国内では年間2,000人以上の子どもが小児がんと診断されています。私が専門とする神経芽腫は、0歳から3歳前後の乳幼児に多く見られる病気です。神経と言っても、脳内にできる脳腫瘍とは異なり、背骨の周りの交感神経節や、腎臓の上にある副腎から病気が始まります。この病気には様々なタイプがあり、治し方もそれぞれ大きく異なります。病気が発見された時点で転移しているような進行例(高リスク)から、特定の場所で一時的に大きくなる例、自然に小さく退縮したり良性化したりする例(低・中間リスク)まであります。このように様々な振る舞いをする神経芽腫に対し、病態解明や診断方法の確立、患者さんにとってベストな治療法の開発を行っています。

わずか0.5mlの血液検査で迅速に診断

大人と違って上手く症状が伝えられない子ども達の病気を適切に見つけることは大切です。神経芽腫には、「MYCN(ミックエヌ)」と呼ばれる特徴的ながん遺伝子があり、この遺伝子の増幅を調べることでリスクを知ることができます。これが増幅している神経芽腫は転移再発する難治のがんです。従来は、手術で腫瘍の一部を切り取って調べる必要がありましたが、私たちは、これを血液検査で調べる技術を開発しました。わずか0.5mlの血液のみで、検査後4時間程度でMYCN遺伝子の増幅の有無が判明するので、すぐに治療方針を決めることができます。このように血液検査で腫瘍の遺伝子異常を調べる方法を「リキッドバイオプシー」といいます。バイオプシーには腫瘍生検(腫瘍の一部を採取して調べる検査)という意味があり、つまり血液で腫瘍生検と同様の検査を可能にする技術です。昨今、様々ながんに応用され、全国の患者さんの診断に役立ててもらっています。

最小侵襲で最大効果を発揮する治療法

私が医師になったばかりの頃は、低・中間リスクの治りやすい神経芽腫に罹患した赤ちゃんに対する適切な治療法はわかっていませんでした。当時は、手術で腫瘍を摘出した後に、強力な薬物療法や放射線治療を行うという、今考えれば過剰な治療がなされていました。そこで私は上司と共に「最小侵襲で最大効果を発揮する」ことを目的として、多施設共同の臨床試験を開始しました。まず低用量の薬物療法で腫瘍を小さくしてから手術を受けてもらい、その後、化学療法を受ける群と受けない群を無作為に割り付けることで、術後の薬物療法が本当に必要かを判定する試験でした。その結果、術後薬物療法の有無に関わらず、5年無病生存率は96%以上で、低用量の薬物療法のみでも、大きな副作用なく予後が良好であることを示しました。臨床試験で目的とする成績が達成できた場合には、それがエビデンスとなり標準治療になっていきます。この臨床試験の結果も、米国や我が国のガイドラインに引用され、現在では手術後に薬物療法も放射線治療も行われなくなりました。以前は、それらの過剰な治療を受けたために、小児がんが治っても合併症を抱えてしまう人が何人もいました。新たな治療法の開発により、神経芽腫に罹患した赤ちゃん達が、健康な人と同様、成人になられることに、大きなやりがいを感じています。

失われた小さな命が導いた研究成果

私が神経芽腫の研究に取り組むきっかけとなったのは、大学卒業5年目に出会った新生児の神経芽腫の症例でした。腹部が腫瘍で大きく腫れ、手術では取りきることができないため、一部を切り取って腫瘍生検をすることになりました。生まれて間もなくの小さな体で手術したのですが、その後、合併症と腫瘍の増殖で、治療をする間もなく亡くなってしまったのです。当時、乳児期の神経芽腫は治りやすく低リスクだと言われていたのに、どうして救えなかったのかとの思いから研究を始めました。
私たちは小児科医なので、トランスレーショナルリサーチといって、臨床現場で役に立つ研究をしています。先生方から、「すぐにがん遺伝子の情報がわかってスムーズに治療が始められました」と感謝されると大変嬉しくなります。研究を始めるきっかけとなった当時の新生児も、今なら、最初から血液でMYCN遺伝子検査をして、すぐに薬物療法を始めて救命できたのではないかと思います。また、以前は放射線治療や強力な薬物療法を受けたために、小児がんが治っても大人になった時に合併症を抱えてしまった人が何人もいましたが、臨床研究を行うことで、合併症が少ない治療法の開発ができたことで、元気に成人になられるかたが増えてきたことが何よりやりがいを感じています。

家原先生からのメッセージ

誰かの役に立つことは人としてこの上ない喜びです。
是非、自己研鑽して、将来、人のために力を注げる何かを見出して邁進してください。

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