Interview
日本政治外交史は世界史や国際情勢に興味がある人にこそおススメ
「現代」を理解し「将来」を見通すために
京都大学 法学研究科 教授
奈良岡 聰智 先生
実は日本史とも共通点が多い日本政治外交史
政治家の別荘やイメージ問題なども研究対象に
専門は日本政治外交史です。法学部で教えられる専門科目は法学と政治学に分けられるのですが、私の専門は政治学の一部門です。この科目は、文学部で教えられている日本史(日本近現代史)とも共通点が多いのですが、特徴としては法学、政治学の方法論を意識的に取り込んでいる点、一国史ではなく比較史、国際関係史的視点をより重視している点があります。
日本政治外交史という科目では、幕末以降の日本の政治、外交にかかわるあらゆるテーマが対象となるのですが、私はこれまで主に明治期から昭和戦前期を研究してきました。大学院生時代には加藤高明という政治家を中心に戦前の二大政党政治について研究し、その成果をまとめた博士論文をもとに『加藤高明と政党政治』(山川出版社、2006年)という本を書きました。その後第一次世界大戦期の日中関係や日英関係について研究を進め、『対華二十一ヵ条要求とは何だったのか』(名古屋大学出版会、2015年)という本をまとめました。これらの研究を行う過程で様々な面白いテーマを見つけ、第一次世界大戦中ドイツで抑留された日本人、政治家の別荘、明治維新の記憶やイメージの問題などについても本や論文を書いています。
郷土や家族の歴史への関心が研究のきっかけに
私は青森市出身なのですが、郷土や家族の歴史に興味を持ったことが研究者を志した原点でした。青森市は太平洋戦争中に空襲に遭っていて、近現代の史跡があまり残っていません。出征、抑留、引き揚げなどの形で戦争に関わった人も多く、私の一家もその例外ではありませんでした。小学生時代にそうした歴史を知り、素朴な疑問から出発して勉強やフィールドワークを始めたことが、今の研究につながっています。
現実の政治や外交への関心も、もう一つの研究の原点です。私が中高生時代だった1980年代後半から90年代前半は、冷戦構造や55年体制が崩壊した激動の時期でした。ソ連の崩壊、湾岸戦争、天安門事件など国際情勢の激変は、外交や国際関係への関心をいやおうなしに掻き立てました。また、自民党が下野した後の(野党となった後の)政党政治の混乱、戦後50年をめぐる様々な問題を見て、この国の将来を構想するためには、自国の近現代史をしっかりと検証する必要があるという確信を抱くようになりました。
新型コロナの収束は予測できた!?
「過去」を研究することで「現代」が理解できる
この研究の魅力は、「過去」の史実を明らかにすることによって、「現代」が相対化され、様々な視点から物事を見られるようになること、「将来」のあるべき姿が見えてくることでしょうか。もちろん、歴史を勉強したからといって、現実の問題に対する解答が直ちに得られるわけではありませんが、「現代」を理解し、「将来」を見通すためには、近現代史の検証は不可欠です。例えば、新型コロナウィルス(Covid-19)は100年前のスペイン風邪とよく似た軌跡をたどりましたし、2022年に勃発したウクライナ戦争は、ソ連崩壊のみならず第二次世界大戦やロシア革命にまで遡らなければ本当の意味は分かりませんよね。「過去」と「現代」の対話を通して、「現代」と「将来」を見通すことができるようになるというのが、歴史研究の醍醐味です。
また、世界中の研究者や学生と語り合えるのも、やりがいになっています。日本史の研究は、日本人が日本語で行うだけではなく、世界中のさまざまな国の人がさまざまな言語で行っており、日本史研究のための国際学会も多数あります。私はこの10年以上、そうした学界に積極的に参加し、様々な人と議論を行い、歴史に対する複眼的視点を学んできました。今後もチャレンジを続けていきたいと思っています。
高校で学ぶ日本史や世界史は、受験勉強を前提としているため、ともすれば暗記重視になり、つまらないと感じると思います。しかし、知識を系統的に身に付けるためには、歴史の「流れ」をしっかり理解する必要があり、そのためには「考える」「疑問を持つ」といったことが必要になります。ぜひ考えながら、そして楽しみながら、歴史を勉強してください。
また、英語や古文漢文などの語学学習も大切にして欲しいと思います。先ほど言ったとおり、現在日本史研究は非常にグローバル化しており、世界中で様々なアプローチによる研究が進められています。そうした成果に接する基礎力をつけるためにも、ぜひ語学の勉強には力を入れてください。
世界史や国際情勢に関心がある人こそ、日本政治外交史の研究に向いていると思います。知的好奇心旺盛な皆さんが、日本政治外交史という分野の扉をたたいてくれるのを心待ちにしています。