Interview
発展途上国の集まりであるASEAN(東南アジア諸国連合)が
地域組織として成功したのはなぜなのか?
関西学院大学 国際学部 国際学科 教授
重政 公一 先生
多様なASEAN加盟国で
人権規範はどう拡がっていくのか
私は国際政治学を専攻しています。とりわけ、約6億5千万人の人口をかかえる東南アジア10カ国から構成されるASEAN(東南アジア諸国連合)の地域統合や加盟国の違いがもたらす人権、人道支援の理論や実践を追いかけています。特にASEAN加盟国は「内政不干渉原則」という「他国の事柄には口出ししない」考えがあるのですが、これがどのように変容しているのかをASEANの中のミャンマー問題(ロヒンギャ民族のことや2021年国軍によるクーデターなど)を中心に分析しています。また、ASEANでは民主主義や人権は2000年代になってから本気で検討されるようになった事柄です。人権にかぎって見れば1993年に初めて文書にこの言葉が登場してから、人権機関が作られたのは2009年になってのことです。そして2012年にASEAN人権宣言を策定しました。この内容が多様な背景を持つ加盟国でどのように拡がっていくのかを注視しています。
学生時代に目にした冷戦崩壊が
国際関係の視点をガラっと変えた
私は大学4年が終わる頃、冷戦崩壊を目にしたことをきっかけに、この分野に興味をもつようになりました。それまで大学で学んでいた国際関係の視点がガラッと変わるようなインパクトを受けたことを覚えています。当時は日本外交を勉強していたのですが、少し海外に出て冷戦崩壊の理由とか、これまで訪問していなかったヨーロッパ大陸を実際に見聞してみようと思ったのです。元々は研究者を目指して留学したわけではないのですが、大学院で軍備管理・軍縮関係や安全保障問題など、あれこれやっているうちに関心が拡がってしまいました。そして自分の中で、いい意味で収拾がつかなくなったのです。こうしたことから突き詰めて調べてみようと思ったことが研究者への道につながりました。その間に研究テーマも変わってきたのですが、地域の点でも、米欧関係から今はアジア太平洋、インド太平洋の多国間主義にシフトしています。
過去の足跡を辿る楽しさと
今後への興味は尽きない
ASEANは誕生してから50数年しか経っていません。元々は関係が良いとは言えなかった東南アジアの国々が、インドシナ戦争を経て現在まで生き残り、グローバル・サウスとよばれる途上国が多く占める地域において、どのようにして成功してきているのか、足跡を辿ることは楽しいです。設立当初は、すぐに解散・分解してしまうだろうと欧米から見られていたASEANが、今日ではEUに次ぐ、成功した地域組織となっています。ASEANを学習してみると、意思決定の合意で物事を進めていく方法やASEANがこれまで気乗りしなった人権など、静かに、しかし着実に変化していっていることを実感しています。今後はASEANが米中対立の中でどのように立ち振舞っていくのか、興味は尽きません。
日本から、その気になれば東南アジアにフィールドワークに行けて、直接当事者にインタビューや関係する調査ができることも楽しさの1つです。日英の学術本や学術雑誌から座学で研究を進めていくことも大切ですが、現地の生の声を聞けるのもこうした研究を進める上で非常に役に立ちます。
とにもかくにも国際政治学・国際関係論を学ぶ上では英語を特に頑張ってください(他の科目で手を抜いていいと言っているわけではありません)。私の主なフィールドのASEANでは仕事の言語は英語です。約6億5千万人の、親日家も多い地域と繋がる知識のバックボーンとなります。日本史・世界史でも対外関係は、おそらく受験生の皆さんにも人気のある内容ではないでしょうか。自分の関心ある地域の歴史から入っていくこともできますし、普段から新聞によく目を通しておくと、単なる「現代社会」の一面に過ぎなかった事の背景が理解でき、面白さにも繋がると思います。国際政治学・国際関係論は、なにも特別な事情を探求するわけではありません。柔軟な頭の発想をもち、海外に興味があり、フットワークの軽い人なら、きっと楽しい大学時代の学びとなるでしょう。
関西学院大学 国際学部 国際学科
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重政 公一先生のゼミ
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