Interview
新しいリハビリテーションの発展のための地道な一歩
神奈川県立保健福祉大学 リハビリテーション学科 理学療法学専攻 教授
菅原 憲一 先生
運動麻痺の状態にあることで身体の中ではどのような現象が起きているのか
理学療法とは、病気やケガ、障害、高齢などによって身体機能が低下した方に対して、基本的な身体機能の回復を目指した治療を行うものです。理学療法の治療は大きく分けて、体操やその他の運動による「運動療法」と、温める・冷やす・電気刺激を加えるといった「物理療法」の2つに分けられます。
私は、もともと理学療法の中でも脳卒中などの中枢神経疾患の方に対して多くの治療を行ってきました。たとえば脳卒中では、手足の力が入りにくくなったり、歩行が困難になったりといった、運動麻痺の後遺症が残るケースが多いことが知られています。その経験から、どうすれば運動麻痺の状態を改善できるのかということを考えるようになりました。麻痺のある状態になることで、身体の中ではどのような現象が起きているのか。身体を動かす根源である脳や脊髄のような中枢神経が、どのように身体を制御し、目的に合わせた身体の動きを作り出しているのか。それを知りたいという思いと、それが分かれば身体の動きを適切に調整していく技術が生まれ、運動麻痺の方々の新しいリハビリテーションが開発できるのではないかということから研究を始めました。
神経細胞の動きが運動にどうかかわるのかを解明する
具体的には、中枢神経を構成する神経細胞が、どう動いて運動の定着に関わっているのかについてのメカニズムを解明しようとしています。
運動と一言でいっても、精細な運動、粗大な運動などその質も非常に様々で、身体の様々な部分の運動は、大脳や脊髄という中枢神経が極めて複雑に関連しながら行われているものです。私達の研究室では、大脳の運動野という部分の活動に着目し、様々な随意運動に関わる中枢神経の制御を筋電図や脳波などを駆使して分析・検討しています。
遠い将来の大きな変革は今の小さな一歩から
リハビリテーションという分野の発展は、障害を持つ人々が少しでもその人らしく生きられる状態に戻して差し上げるという、まさに困っているひとの役に立つ仕事です。我々の行っている研究は残念ながら明日その人に役立つものではありません。研究はどんな分野もそうですが、基礎研究であればあるほど、その道程は遠いものです。そして孤独な戦いです。その中で、少しでも興味をもって研究室の門を叩く学生や大学院生が来てくれたときは本当にやりがいを感じるものです。遠い将来になにかの変革をもたらすには、今の地道な研究の継続が何より大事なものであると思っています。
将来の夢に向かって頑張っている受験生の皆様、日々の努力本当にご苦労さまです。将来の夢は鮮明であればあるほど日々の頑張り方も明確になってくるものです。医療職として人の役に立つ仕事を目指す方々は、その鮮明な夢の姿を手にしているものと思われます。
何につけ医療職は自らの技術の進歩を必要とするものです。成長のためにはトライアンドエラーは大切です。まずはチャレンジして、その結果からエラーを見つけ出し、経験を深めていくことが発展の鍵だといわれています。エラーがわかっていれば、次にどのように取り組めばよりよくなるのかという予測が立ってきます。しかしそのエラーを得るためにはトライする必要があります。トライする勇気は何より大事なものとなるということでしょう。でも、その先にあなたの助けが必要な方々がいます。人のために奮闘する、それこそが自らのためにもなる。医療職はそんな仕事であると思います。あなたを必要とする人のため、そして自らのためにがんばってください。
神奈川県立保健福祉大学 リハビリテーション学科
https://www.kuhs.ac.jp/department/graduate_school/
菅原 憲一先生の研究室
https://www.kuhs.ac.jp/department/graduate_school/professors/details_01412.html