甲南大学 知能情報学部 知能情報学科 北村 達也先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

人は、どのように音声を生み出し
どのように音声を聞いているのか

甲南大学 知能情報学部 知能情報学科 教授
北村 達也 先生


アニメ声の発声の仕組みとは? 声道の変化を観察し、発声の仕組みに迫る

音声は、私たち人間にとって、手軽に使えるコミュニケーション手段の1つです(最も手軽と言われることもあります)。私は、人がどのように音声を生み出し、どのように音声を聞いているのかを主な研究テーマとしています。
音声は、肺から出た呼気が喉にある声帯などで音に変わり、それが喉や口の空間(声道といいます)を通ることによって生み出されます。このとき、声道の形が変わることによって、音声に音響的な変化が生じます。例えるなら、トランペットの管の形が時々刻々と変化するようなものです。発声の様子は体の外から眼で観察することができませんので、それを観察する技術を開発し、発声の仕組みを調べています。例えば、病院で使われるMRI装置や超音波診断装置を用いることによって、舌の動きや、声道の形の変化を観察することができます。そして、得られた声道の形からシミュレーションによって音声が生み出される原理や、一人ひとりの声が異なる原理を調査しています。また、このような技術を利用して、物まねタレントが他人の声を上手にまねる仕組みや、声優がアニメ声を発声する仕組みも研究しています。

発声訓練システムや図書館のコミュニケーションロボットの開発も

また最近では、このような音声生成の原理に迫る基礎研究のほか、情報処理技術を用いた応用的な研究も行っています。私たちの調査では、医学的には健康であっても、自分の発声がうまくいかないと感じている人が約3割もいることがわかっています。そこで、このような人たちに簡単で効率的な発声訓練法を提供するための研究を行っています。例えば、画像処理AIを用いて発声中の口の動きをリアルタイムに評価するシステムや、発声とゲーム操作を結びつけてゲームで遊んでいるうちに自然に発声訓練ができるようなシステムなどの開発です。
さらに、近年性能が劇的に向上した音声認識や音声合成の技術を利用し、ロボティクスの専門家と協力してコミュニケーションロボットを開発しています。コロナ禍の最中には、図書館のヘルプデスク業務を支援するロボットを開発し、それ以来、運用を続けています。このロボットは、音声の対話によって利用者が希望する本を探したり、お薦めの本を紹介したりといった業務を代行します。ロボットはウイルスに感染しませんし、音声を用いることにより、利用者は情報端末のキーボードなどを触らずに済みますので、感染リスクを減らすことができます。実際の業務にロボットを導入することを通して、現場のスタッフや利用者にとって使いやすいシステムを検討しています。

医学、物理学、言語学、心理学、音楽学……
ありとあらゆる学問が関係する面白さ

私は大学で、たまたま音声の研究室に配属されたことから、「音声認識を高速に実行するために、認識に必要な計算量を減らす方法」について卒業研究を行いました。そこで研究の面白さに気づいて大学院を考えていたとき、石川県に北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)が開学して1期生を募集しているのを知って進学を決めました。大学院でも音声認識の研究をするつもりでしたが「音声認識を実現するには、人間がどうやって音声を認識しているかを知る必要がある」とおっしゃる先生と出会い、それ以来、今の研究を続けています。
音声の研究には様々な学問が関係しており、それこそが研究の面白さだと感じます。音声を生み出す体の仕組みは解剖学や生理学、話す内容を考えて筋肉を動かす部分は脳科学、音声が生み出される音響的な原理は物理学。さらに、それをシミュレーションするには数学や情報科学が必要です。発声される音声が言語音であれば言語学、歌声であれば音楽学と関連しますし、人以外の生物の声を研究している研究者もいます。音声がうまく発声できなくなったときには医学の出番です。音声を聞き取る能力を知るには、心理学、脳科学が必要ですし、音声認識や音声合成の技術は工学の領域です。研究においては、世界中の研究者がそれぞれの専門性を活かして知恵を絞り、協力し合って新しい知見の発見や新しい技術の開発を目指して活動しています。これは音声分野に限った話ではありませんが、私はこういった活動に魅力を感じています。

北村先生からのメッセージ

皆さんは、日々、スマートフォンやインターネットを通じて情報処理技術に触れていると思います。スマートフォンやインターネットがなければ何をするにも困ってしまうという方も少なくないでしょう(私もその一人です)。実際、現代社会は情報処理技術によって支えられているといっても過言でありません。人間のあらゆる活動や学問において情報は存在しますので、それを取り扱う情報処理技術は人間のあらゆる活動や学問において役立つ場面が必ずあるのです。現代は、情報処理技術が社会のあり方や私たちの生き方さえも変えていく時代です。このような技術の基礎となる情報学はダイナミックで魅力あふれる学問領域です。ぜひ多くの方にこの学問を学んでいただき、ともに新しい技術、学問、社会を作ってくことを願っています。

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