Interview
電波を使わない新たな通信の時代へ
工学院大学 情報学部 情報通信工学科 准教授
工藤 幸寛 先生
通信電波は限られた資源
皆さんの身の回りには、どれほど多くの電波を使用する機器があるでしょうか?スマートフォン、ワイヤレスイヤホン、ゲーム機、パソコンはもちろん、最近ではスマート家電の普及により、エアコンや調理器具までもが電波を使ってインターネットに接続するようになりました。しかし、通信に利用できる周波数帯域は限られた資源であり、近年そのひっ迫が問題になっています。機器の増加だけでなく、動画コンテンツなど大容量通信の需要増加も、この問題をさらに深刻化させています。イベント会場やターミナル駅など、人が多く集まる場所でスマートフォンがインターネットに繋がりにくくなった経験がある方もいるのではないでしょうか。そこで、近年では電波を使わない新たな通信方式として、目に見える光、つまり可視光を使った通信が注目されています。
光のコントロールで省エネ・高速化
私たちの研究室では、ディスプレイをはじめとする光を操る電子デバイスの研究に取り組んでいます。様々なテーマを扱っていますが、最近では「光散乱型液晶素子」と呼ばれる、光の透過と散乱をコントロールできる素子の動作を高速化し、可視光通信に応用する研究を行っています。この素子は、皆さんが想像するような一般的な液晶ディスプレイとは異なり、透明な状態と曇りガラスのような状態を電気的に切り替えることができます。私たちは、「強誘電性液晶」と呼ばれる特殊な液晶材料を用いて素子を作製し、切り替え動作の高速化を実現しました。液晶素子は消費電力が非常に小さいため、この素子を使って照明や日光などの環境光に情報を乗せることで、LEDなどの光源を直接制御するよりも消費電力を抑えることができます。これにより、IoT機器などのバッテリー駆動時間の延長が期待されます。
理科好き少年とディスプレイ研究の出会い
私は、小さい頃から理科が大好きで、物理、化学、生物といろいろな分野に興味を持っていました。そして、小学校高学年になる頃からコンピュータが普及し始め、次第にコンピュータに熱中していきました。ソフトウェアについてはインターネットなどで比較的情報を得やすく、独学でもある程度学べていたので(実際には大学でしか学べないこともたくさんありますが)、電子工学も学びたいと考え、大学の学科選びの際には、その分野も学べるような学科に焦点を当てました。研究との出会いは卒論の配属時になりますが、大学に入ったからには自分では買えない装置を使って研究したいと思い、デバイス系の研究室を選びました。半導体の研究にも興味がありましたが、素子の動作が目で見てわかるディスプレイの研究室を選んだことが、現在の研究への入り口でした。
慎重な作業と長い時間が生み出す大きな喜び
私たちの研究室では、実際に素子を試作し、その性能を評価しています。1つのサンプルを作るだけでも、基板の洗浄から始まり、さまざまな膜の成膜や組み立てなど、慎重な作業と長い時間が必要です。しかし、実際に作った素子がうまく動作したときの喜びは非常に大きいものです。また、電子デバイスを研究するには、デバイスの構造だけでなく、各種成膜技術、測定技術、材料化学、電子回路、装置制御のためのプログラミングなど、さまざまな技術が求められます。これらを一人で網羅することは難しいため、さまざまな専門家と協力しながら研究を進めることが多くあります。その過程で新しい知識を得たり、他の研究者の役に立ったりすることができるのは、非常にやりがいを感じる瞬間です。
どんな分野にも共通することですが、「なぜ?」を大切にすることが非常に重要だと思います。生活の中で出会う小さな疑問をそのままにせず、まずは自分で考え、次に本やインターネットなどで調べてみると良いでしょう。調べるうちに、また新たな「なぜ?」に出会うはずです。この繰り返しが本質の理解につながります。物理、化学、数学、英語など、高校での学びは理工系分野の場合、大学での学びに直結します。一方で、公式を覚えて当てはめるだけでは、なかなか応用が効きません。疑問をそのままにせず、その原理を理解することで、さまざまな分野への興味が深まり、より勉強も捗るのではないかと思います。
工学院大学 情報学部 情報通信工学科
https://www.kogakuin.ac.jp/faculty/informatics/ice.html
工藤 幸寛先生の研究室
https://www.kogakuin.ac.jp/faculty/lab/info_lab137.html