神戸大学 文学部 社会動態専攻 平井 晶子 先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

出発点は、暮らしや社会から生まれるモヤモヤ

神戸大学 文学部 社会動態専攻 教授
平井 晶子 先生


私の中に社会があり、社会の中に私がある

私は社会学、中でも家族社会学や人口学を専門にしています。社会学はもともと19世紀末に、近代化するヨーロッパ社会で生まれた比較的新しい学問で、個人を越えたところにある人と人との関係に注目します。例えば、家族やコミュニティ、村落、都市がどのような特徴をもっているのか、階層はなぜ世代を超えて維持されるのか、国家とは何か、宗教や文化、移民も社会学が扱うテーマです。
家族やコミュニティを外から見るだけではなく、それを作っているのが私たち個人だという双方向の関係を見るところに社会学の面白さがあります。つまり、わたし自身が人と人との関係の中で形作られる存在であり、同時に、そのような私が社会を作っているのです。まさに「私の中に社会があり、社会の中に私がある」、そのことを発見し、そこから社会を、自分を、問い直すことができるところに魅せられました。

自分が知っている「家族」が家族の全てではない

家族は、とても身近で「誰もが知っている」存在かもしれません。でも、自分が知っている家族が家族の全てでしょうか。そんなはずはありませんよね。例えば、私は現在、夫と未婚の子どもと暮らしています。いわゆる核家族で、いかにも一般的な家族の形と思われるかもしれません。が、この形をしている世帯は2020年の日本で25%にすぎません。今は全世帯の38%が一人暮らしで、ちびまる子ちゃんのような祖父母が同居する世帯はわずか7%です。もちろん「一緒に暮らしている人」という世帯だけが家族ではありません。離れて暮らしていても家族と認識していることはあるでしょうし、一緒に暮らしていても「家族」と思えない場合もあるでしょう。社会学では、こんな風に、家族を少し引いて客観視し、自分の中の常識を疑い、そこから自由になることができます。

一人ひとりが真剣に悩みぬいた結果の結婚・出産がパターン化される摩訶不思議さ

私が現在の研究に興味を持ったのは、「どうして母だけが介護のために仕事を辞めなければならないのか」といった素朴な体験からです。家族の当たり前に疑問を持ち、なぜ、いつから、家族の当たり前ができたのか、そこに興味をもったのです。そして、のめり込むようになったのは人口学の面白さに気づいたことが大きいです。例えば、合計出生率(1人の女性が生涯に産む平均子ども数)。数字で1.3とかで表現され、「下がったから大変」とか言われている、あれです。1949年は4.3でした。そこから急激に減少し、1957年には2.0に。そして、ほぼ20年間、「子ども2人が標準」でした。ほとんどの人が20代で結婚し、2-3人の子どもを産むという均質なライフコースを歩んでいたんです。おそらく皆さんの祖父母世代でしょう。でも、少し立ち止まって考えてみてください。「私がいつ、誰と結婚し、何人の子どもを、いつ産むのか」って、人生で最も重大な選択の代表格ではないでしょうか。一人ひとりが真剣に悩み考えた結果が結婚であり、出産なのに、それが同じようなパターンとして現れるという事実に圧倒されたのです。社会というものの威力というか、摩訶不思議さに気づいたという感じです。

約300年の時間軸で過去と比較し現在を捉え直す

私は、歴史と比較という2つの視点から家族の現在地を捉え直す仕事をしています。家族の今を知るには、何かと比べることが一番わかりやすいと考えているからです。過去と比べて「どう変化したのか」「なぜ変化したのか」、たとえば母親だけが祖父母の介護をするために仕事を辞めるという状況が、いったいいつ、なぜ生まれたのかというように。そうしているうちに問いがどんどん増えて、江戸時代から現代までの約300年という時間軸で家族の変化を見るようになりました。また、外国との比較も面白いです。家族はどこにでもあるので、どこでも比べられます。どこでも比べられるので、何をどう比べるのかをしっかり考えないとわけがわからなくなりますが……。はじめは、欧米の後を追って日本も近代化する、という大方の見方に沿って欧米と比較していたのですが、1990年代以降の日本家族やジェンダー構造の変わらなさに直面し、最近は同じような課題を持つアジアの中で日本の特徴を考えるようになっています。

平井先生からのメッセージ

今の暮らしに、今の社会に、なんら疑問がないのであれば、言い換えると、今の状況に不自由さや、居心地の悪さ、怒りを覚えることがなければ、社会学という学問はいらないでしょう。社会の矛盾に苛立ったり、自分の内なる声に内包されている矛盾に気づいたりして、モヤモヤしたものを抱えているからこそ、「なぜ?」と問いたくなるのです。ここが社会学の出発点です。もちろん文学でもアートでも、モヤモヤを考えることはできますが、私は、社会と個人の往還からアプローチする社会学を学び、自分が気になる1点を深く深く掘り下げることで、そのモヤモヤと付き合ってきました。常識の成り立ちを知ることで、そこから自由になるヒントを得てきました。
今は受験勉強が忙しいかと思いますが、内なる声やモヤモヤを大事に抱いて大学に来てください。その正体に近づく場はきっとあると思います! 興味のある方は、私たちが編集した本、『<わたし>から始まる社会学』(有斐閣、2023年)を読んでみてください。

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