近畿大学法学部法律学科辻陽先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本

Interview

自治体ごとに千差万別！
未開拓だった「地方議会」研究の扉を開く

近畿大学法学部法律学科教授
辻陽 先生

政治学の観点から地方自治体の活動を議論

私の専門は「地方自治論」です。法学部では、「地方自治法」や「地方自治論」といった科目が開講されることが多いですが、このうち「地方自治法」が法律学の観点から、主として法律に書かれている内容やその解釈について学ぶ科目であるのに対し、「地方自治論」では政治学の観点から都道府県や市区町村といった地方自治体の活動について議論する科目であるといった違いがあります。より具体的には、都道府県庁や市区町村の役所・役場が果たす機能、そして国と都道府県や市区町村の間での人・政策・お金のやり取りについて学習します。
私自身は、大学院に進学して以来、地方議会を中心に研究してきました。25年前の時点で地方議会研究の蓄積が進んでいなかったので、国会と同様の政党政治が地方議会でも見られるのか、日本の地方政治に影響を及ぼすのは首長なのか議会なのかといったことを調べ、2015年に『戦後日本地方政治史論』（木鐸社）という本にまとめました。さらに2019年には、日本の地方議会・議員について広く知ってもらいたいという思いから、『日本の地方議会』（中公新書）を刊行しました。
最近は、なり手不足に悩む小規模自治体の運営をどうすればいいかという観点から、アメリカの小規模自治体の議会運営に関心をもっています。

大学入学後、興味は法学から政治学へ

大学に入った頃は、裁判官・検察官・弁護士といった法曹三者を目指す学生が周りにいて、自分も一瞬その気になったのですが、1年生のときに履修した「法学入門1」が68点、「法学入門2」が30点というざまでした（苦笑）他方で、「政治学入門」は毎回欠かさず出席し82点！　自分には政治学が向いているんだと思うようになりました。
そして、専門科目が自由に選べる3年生になってからは、政治学の科目を片っ端から履修。卒業単位を修得するために必要だった法律学の科目も、政治権力が絡む分野、具体的には行政法や国際法などを履修しました。そのうち、もう少し政治学を勉強したいなぁと思うようになり、大学院入試にチャレンジした結果、奇跡的に合格することができました。
私が師事した故・的場敏博教授が議会政治を専門とされていたこと、さらには自分の父親が地方公務員だったこと、そして先述のとおり地方議会研究が未開拓の分野だったことから、地方議会の研究を始めて今に至ります。

“全体”と“部分”の双方を論じる面白さと難しさ

一口に地方議会といっても、各自治体でそのあり様は千差万別です。都道府県と市区町村では審議する議案の内容も違います。また、横浜市のような大都市と人口が5000人を切るような町村とでは、議員数も議会の運営も議員報酬の額も大きく異なります。そのような各々の地方議会の違いを超えた全体的な特徴を捉えることも必要ですし、他方で一緒くたに扱われるべきではない、地方議会ごとの違いを論ずることも重要です。このように、全体と部分の双方を論ずるところが、研究の面白みや難しさにつながっていると考えます。
議事録をたくさん読んだり、多くの議会データを集めたりしたうえで、その内容をまとめているうちに、自分がもともと主張しようと考えていたストーリーがかなりの確かさをもって言えそうだという実感が得られたときは嬉しいですね。

辻先生からのメッセージ

自分にとって面白いことがわかるまで、時間がかかることがあります。私は、高校に入った頃は数学が好きだった一方、国語が苦手で理系に進もうと考えていました。ですが、1年生のときに学んだ政治・経済が面白かったことから、法学部を志望しました。
大学に入って大学院進学を考えるようになったのも3年生を過ぎてからです。私が所属していた点訳サークルで、「5回生」や「6回生」がごろごろいたのを目の当たりにして、「大学って4年間で出なくてもいい場所なんだ」と勘違い（！）するようになり、入学時にもっていた「留年なし卒業・即就職こそが王道」という凝り固まった考えが解消されました（笑）。大学は、自分の好きなことを見つけ、それに打ち込むのにもってこいの場です。大学入試に合格することを最終目標としてしまうと、入学後にやりたいことが見つからなくなってしまうこともあります。ぼんやりとでもいいので、大学生活で何がしたいかをイメージしながら受験勉強に励んでみてはいかがでしょうか。