慶應義塾大学 経済学部 玉田 康成 先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

人間は努力する一方、サボったりもする
だからこそ、面白い!

慶應義塾大学 経済学部 教授
玉田 康成 先生


人や企業をダークサイドに導く要因とは?

私の研究内容は「情報とインセンティブの経済学」および「組織の経済学」です。インセンティブは「人や企業をある行動へと誘う要因」という意味で、経済学で大切にされている概念です。このインセンティブは、人や社会を前に進める原動力となります。自分を高めたい、新しい製品を世に出したい、金持ちになりたい――自己利益の追求も含め、さまざまなインセンティブが世界をよりよい方向へと導いてきました。皆さんが毎日利用するスマホも、数多くの人の数多くのインセンティブが重なり合って開発され、製造され、販売されています。
けれども、良いことばかりとは限りません。よく企業や政治家の不祥事が報道されることがありますが、不祥事に手を染めてしまった背後には、何らかのインセンティブがあったはずです。インセンティブが人をマイナスの方向(ダークサイド)に導いてしまうことは特別なことではありません。やるべき仕事に身が入らなかったり、後ろめたさを覚えながらもちょっとごまかしてみたり、といったことは誰にでもあります。
インセンティブに導かれて人がどのような方向に進むのかは、情報が大きく影響しています。経営者が誰からもチェックされなかったり、取引先に納入する製品の質を誰も確認できなかったりすると、経営者による企業の私物化や製品の質についての虚偽が生じかねません。適切な情報が外部から見えないことで、自己利益追求のインセンティブが人や企業をダークサイドへと導いてしまう可能性があります。
ここで、考えるべき問題は2つあります。まず、インセンティブが人や企業をダークサイドに導く原因や理由を明らかにすること。そして、インセンティブがダークサイドに導くことがない取引ルールや制度のあり方を明らかにすることです。決して自己利益のインセンティブは否定するべきではありません。それは人や社会、経済の発展に不可欠だからです。「情報とインセンティブの経済学」は、自己利益の追求というインセンティブに導かれてダークサイドに堕ちてしまう原因や理由を探り、その上で取引ルール(契約)や制度、組織のあり方をうまくデザインすることで、問題の解消を目指しています。

組織が力を最大限に発揮するためには?

「情報とインセンティブの経済学」の重要な応用分野のひとつが「組織の経済学」で、それが私の専門です。例えば企業がそうであるように、「組織」は個人の力では生み出せない大きな価値を実現します。けれども、組織を構成する個人がいわゆる「組織の論理」や「しがらみ」と葛藤するばかりだと、その組織は適切に機能しません。組織が性能を最大限に発揮するためには、組織の中に数多く存在する個人のインセンティブを調整・制御し、組織の目的に沿わせることがとても大切ですが、それが「組織の経済学」が取り組む課題です。論点は膨大にありますが、私はとくに組織内部の意思決定や権限の構造に関心があります。
私は、学生時代は企業競争や企業の戦略的行動の分析に関心を持ち学んでいましたが、同時に企業の中の情報とインセンティブ関係に焦点を当てた「契約理論」という研究分野にも強く関心を持つようになりました。企業と企業、企業と消費者の関係性よりも、企業の中の人間の関係性の方が面白かったのです。やはり人は複雑だから、身を粉にして頑張ったり、出世しようと努力したり、でも、ときにはサボったり、嘘をついたり、他人の足をひっぱったり。様々な人々の複雑なインセンティブが企業の中で絡み合っています。そして、複雑なインセンティブを上手く制御することで「良い企業」や「良い組織」が生まれます。とても現実的で複雑な問題ですが、経済学というツールを通じて鋭く分析できることに面白みを感じるようになりました。

私たちの身近な問題を分析する経済学は
実用性が高く、やりがいがある

私と大阪大学の石田潤一郎教授とで『情報とインセンティブの経済学』(有斐閣)という本を著しました。ぜひ手に取ってみてください。とても面白いですし、世界を眺める見方が変わると思います。本書では、各章の冒頭で現実的な状況を物語仕立てで紹介しながら、研究課題として取り組むべき問題が何なのかを明確にしています。実のところ「どこかで聞いたことがあるような、ありふれた話」ばかりなのですが、それが大切です。情報とインセンティブにまつわる問題はありふれた日常の中に潜んでおり、どこにでもある身近な問題を分析できるからこそ実用性が高く、やりがいがあります。
また、経済学などの社会科学では、問題は人が営む社会の中に存在します。そして、時代や場所によって社会も変化します。それぞれの社会の固有の問題を見つけるためには、総合的な知力が必要ですし、研究者の価値観や世界観によって発見される問題もその評価も変わってくることもあります。しかし、現在の問題を多様な価値観で評価することで、人も社会もさらに前に進むことができます。そして、自分が真に重要だ、面白いと信じる問題を分析することでそのような前進に貢献できるなら、大きな喜びを感じます。

玉田先生からのメッセージ

経済学は昔から学問分野としてしっかり確立されていますし、経済を中心とする人や企業、社会の営みを分析するための、洗練され、性能が高く、射程が広いツールとしての高い評価も定まっています。そして、アメリカなどでは以前から、最近では日本でも、取引ルールのデザインからデータ分析まで、幅広い経済学の知見をビジネスの現場で活用・実装する局面がとても増えてきています。経済学は面白くやりがいがある学術的な知であると同時に、社会に出てからも有効活用できる武器ともなります。専門的な学知を、社会に出てからの自身の強みとしたいならば、経済学部を選ぶべきだと私は思っています。

関連情報

学部から探す

大学の学問系統別にご紹介しています。さっそく興味のある学問から読んでみましょう。

四谷学院の「ダブル教育」
四谷学院について詳しくはこちら
個別相談会はこちら
資料請求はこちら

ダブル教育とは?

予約コード17GJWAZ

『学部学科がわかる本』冊子版をプレゼント

予約コード17GJWAZ

ページトップへ戻る