Interview
陸上の生態系を支える「窒素」は、どう巡る?
日本女子大学 理学部 化学生命科学科 准教授
上田 実希 先生
たくさん大気中にあるのに、生物に不足しがちな養分
私の専門は生態学です。陸上の生態系において、生物にとって重要な養分である「窒素」の挙動を調べています。窒素は大気中に窒素ガスとして多く含まれますが、ほとんどの生物はそれを養分として直接利用することができません。そのため、陸上生態系では多くの生物にとって窒素は不足しがちな養分です。
植物は、主に土壌中から無機態の窒素を養分として吸収し、利用しています。研究では、これについて、土壌からの吸収過程や植物内に入ってからの利用様式について焦点を当てています。植物は、足りない窒素を上手に獲得したり、また体内で節約しながら効率的に利用したり、さまざまな戦略を進化させています。また、土壌中で無機態の窒素が生成される様式についても研究しています。土壌中には無数の微生物が生息していて、有機態の窒素から無機態の窒素を生成し、生態系の窒素循環を稼働させています。
土壌において、無機態窒素が生成される速度は、植物にとって重要であり、多くの陸上生態系では、それが植物の生産量(つまり、光合成によってどれだけ二酸化炭素を吸収できるか)を決定づける重要な要因であることが分かっています。近年、温暖化の主要な原因である大気中の二酸化炭素濃度の上昇が心配されているため、土壌中の無機態窒素の生成はとても注目されています。
地球温暖化が土壌中の窒素生成を左右する
さらに、地球温暖化や高二酸化炭素濃度などの環境問題が、植物の窒素利用や土壌中の無機態窒素の生成にどのように影響しているかについても研究しています。たとえば、温暖化は気温が高くなるだけではなく、場所によっては乾燥化を引き起こしたり、積雪量の減少によって土壌表面の温度が下がって凍結を引き起こしたり、多様な影響を及ぼします。このため、温暖化の影響を調べるために、乾燥条件や積雪除去などの実験を行っています。また、大型の草食動物であるシカの個体数が増えた影響や、大規模な伐採が続いている熱帯林の再生過程における窒素の挙動の変遷などについても研究してきました。これらの研究は、積雪や土壌凍結が起こる亜寒帯林から熱帯林まで、多様な場所でフィールドワークを行ったり、圃場や人工気象室で植物を育てて実験したりするなどの手法で行っています。虫や日焼けが苦手という学生もいますが、人工気象室での実験であれば問題ありません(笑)。
フィールドデータがもたらす達成感と期待感
私が学生の頃は、酸性雨の問題が今の温暖化の問題のように、よくテレビなどで取り上げられていて関心がありました。酸性雨の原因の一つに窒素酸化物があり、窒素の挙動に興味を持ったことが、このような研究の道に進んだ最初のきっかけです。
私の研究分野では、トライアンドエラーのエラーの部分は少なくて、フィールドなどで測定を行うと何らかのデータを得られることがほとんどです。思った通りのデータが出たときはとても達成感がありますし、思いがけないデータが出たときはとてもワクワクします。また、研究を通じて色々な場所に行くことができるのも、楽しみの1つです。温泉が好きなので、調査地に行く前に近くの温泉について調べていくことが多いです。
受験勉強は大変なこともあるかもしれませんが、難しい問題について論理的に考える能力や、簡潔な文章で表現する能力、体系的に記憶する能力など、受験勉強によって培うことのできる様々な能力が身につきます。そしてそれらは、大学に入ってから、そして社会においても役立つことが多いです。コツコツと目標に向かって勉強に取り組んだことは、無駄にならず、皆さんにとって財産になると思います。
日本女子大学 理学部 化学生命科学科
https://www.jwu.ac.jp/unv/academics/science/chemical_and_biological_sciences/index.html
上田 実希先生の研究室
https://mcm-www.jwu.ac.jp/~uedam/