北海道大学 獣医学研究院 石塚 真由美先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

環境汚染物質という「毒」は、ヒトを含む生物にどのような影響を与えるのか?
獣医学研究院で環境汚染を考える

北海道大学 獣医学研究院 教授
石塚 真由美 先生


私たちは、日々の食事から
様々な「毒」を摂取している

「毒」から身を守るメカニズムに関する研究を行っています。私はもともと生物のもつ形態や機能に興味を持っていました。そして大学生のとき、フグ毒「テトロドトキシン」がフグによって作られるのではなく細菌によって作られること、また、スベスベマンジュウガニやイモリなどの生物が、この毒を自身に蓄積して利用していることを知り、なぜこれらの生物が「テトロドトキシン」中毒にならないのか不思議に思ったのがきっかけで毒性学の道に進むことになりました。毒性学では、「世の中のものはすべて毒である」というのが基本の考え方になります。水でも酸素でも、ヒトは死に至ります。日々食べている食事の中にも、植物毒や環境化学物質などが少しずつ存在しており、私たちは毎日、様々な化学物質を摂取しています。また、化学物質に囲まれて過ごしているのはヒトだけではありません。動物も同様です。我々は、各生物が毎日取り込んでいる化学物質から、どのようにして体を守っているのか、「毒」に対して持っている生体防御機構を調べています。

肉食動物は解毒機能が衰えている?
動物ごとに異なる解毒の力

生体防御機構の1つとして、化学物質を水に溶けやすくし、尿から排泄する方法があります。まずは第一段階として酸化・還元・加水分解によって水溶性を増し、それでも排泄されない場合、第二段階としてさらに水に溶けやすくするための「補酵素」を抱合します。それぞれの段階で重要となるのが「シトクロムP450」と「UDPグルクロン酸転移酵素」という酵素です。我々の研究室では「解毒酵素」と言われる酵素群の中で、主にこの2つの酵素の動物種差に関して研究を進めています。これまでに分かったこととしては、これらの酵素は、動物の食性とともに進化を遂げてきたという点です。肉食性の強い動物では、「アルカロイド」など毒性の高い植物由来の化学物質を解毒する機能が衰えていることが分かっています。逆に、草食性動物や雑食性の動物は、「シトクロムP450」や「グルクロン酸転移酵素」が発達していることが分かっています。生体防御の動物種差に関してはゴールが見えていません。調べれば調べるほど、生物進化の面白さを実感しています。もちろん、解毒酵素だけではなく、化学物質を匂いや味で忌避したり、腸内細菌で分解したりすることも重要な防御機構です。生物は、生体防御機構を発達させながら、化学物質とともに進化共生してきました。

毒性学から環境問題を解決
「One Health」を目指して

一方で、進化の過程で獲得してきた生体防御機構では対抗できない化学物質も身の回りにはあふれています。その一つが、ヒトによる近年の活動で放出されている環境汚染物質です。日本では、高濃度の化学物質による環境汚染が起こることは稀になりましたが、海外、特に途上国では、過去に日本が体験してきた様々な「公害」が現在進行形で進んでいます。また、高濃度の急激な環境汚染物質の曝露ではなくとも、長期にわたる曝露は、慢性的な健康被害をもたらす可能性があります。我々は、この環境化学汚染がヒトを含む生物にどのような影響を与えているのか、そしてそれを防ぐためにはどうすればよいのか、課題解決までを視野に入れた研究も行っています。
アフリカで調査を行った際には、我々が想像していた以上に環境が汚染されていることに大きな衝撃を受けました。鉛はWHOなど国際機関が警鐘を鳴らし、年間数百万の健康被害を出していることが報告されていますが、アフリカの子供たちの鉛の血中濃度の高さは本当に驚くほどでした。実は、この調査は学生も一緒に行っていたのですが、その中で「僕たちは汚染の毒性学的なデータを出すことしかできない。本当の環境汚染の問題解決につながっていない」と言われてしまいました。そこで、我々、毒性学教室が、現地の汚染解決のためにできることは何だろうと考えた答えが、「異分野の先生方と協働で研究を進めること」でした。ヒトと動物、そして環境の健康を一つの健康として捉える考えを「One Health」といいますが、この「One Health」の実現のためには、一つの分野だけの取り組みでは難しく、これからも工学や農学分野、保健科学や経済学分野など、様々な異分野の先生方との協働で、この研究を進めていきたいと考えています。

石塚先生からのメッセージ

「疑問」や「好奇心」を大事にしていただきたいと思っています。大事にする、という意味は、放置しないということです。好奇心は研究のまさに原動力ですが、同時に、獣医学を学ぶものとしての重要な基盤を作ってくれると思います。獣医師の仕事は多様ですが、なぜなのか、どうしてなのか、面白そう、という疑問と好奇心は、どの分野の獣医師にも重要だと思っています。今、獣医学には様々な知識とスキルが必要になってきます。獣医学で学ぶ内容は基礎から臨床、そして行政まで非常に幅広く、対象となる動物もイヌやネコだけではなく、野生動物や鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫までカバーします。「好奇心」は学生の皆さんにも、そして無事に国家試験を合格して獣医師になってからも、その高いモチベーションにつながると信じています。

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