一橋大学 ソーシャルデータサイエンス学部 加藤 諒 先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

国全体の会計制度と1企業のマーケティング戦略を
統計学というツールを用いて研究するジレンマとやりがい

一橋大学 ソーシャルデータサイエンス学部 准教授
加藤 諒 先生


位置情報に連動する広告データ等を利用し
消費者や企業の行動を明らかに

私の研究は大きく「マーケティング・サイエンス」「実証会計学」「統計学」という3つの分野に分けられます。
マーケティング・サイエンスは、データ解析に基づいて、消費者や企業の行動を明らかにすることを目的とします。例えば、スーパーの会員情報と購買履歴を組み合わせたデータ解析や、企業の広告費データと売上データを組み合わせたデータ解析を行うことで、消費者の行動原理を明らかにすることや、企業にとって有益な広告戦略を明らかにすることなどが、これに当たります。特に私は、近年利用が可能になっている位置情報データや、それに連動したモバイル広告のデータなどを利用し、企業のプロモーションが消費者の行動に与える影響について研究を行っています。
実証会計学は、上場企業が公表している「財務諸表」を用いて法制度(会計制度)の変更が企業の行動に与える影響や、株価との関連性を探る分野です。「財務諸表」というのは、企業の1年間やこれまでの実績を表すいわば「成績表」のようなデータです。特に関心のあるテーマとして、「財務諸表」という成績表の“正しさ”を第三者として精査する「監査法人」と呼ばれるプロフェッショナルが、その監査を受ける企業の利益に与える影響について研究を行ってきました。また最近では、AI(人工知能)の登場によって、監査法人で働く「公認会計士」の業務をどの程度代替する可能性があるのか評価する研究も行っています。
上記2つの研究分野に共通するのは、実際のデータを用いるという点です。その量は通常膨大で、データそのものを眺めていても我々はほとんど何も理解することができません。これらのデータを有効に用いるためには、そのデータが示していることを解釈しやすい形で可視化したり、あるいはデータから将来を予測したりすることが重要です。統計学はこれらの問題を解決するための有用なツールであり非常に重要となるため、これも研究の柱の1つとしています。

最初の入口は会計学
研究の中で、どんどん広まる興味

私は大学1年生のころ、漠然と公認会計士になりたいと考え、簿記や会計学の勉強をしながら簿記検定や英文会計に関する資格も積極的に取得していました。その流れで3年時から会計学に関するゼミに入ったのですが、そこで卒業論文を書くためにデータ分析(統計学)の研究を行ってく中で、統計学にも強い興味を抱くようになります。以前から統計学の講義は好きで進んで勉強していたので、その知識がデータ解析に活かせることは、とても楽しかった覚えがあります。また、会計学は広く国全体の会計制度に関する研究を行いますが、より自分の生活と強く関連する分野の研究にも興味を持つようになります。その最たるものがマーケティング・サイエンスで、研究の成果が企業の戦略に生かされる可能性に魅力を感じました。そして、マーケティング・サイエンスは膨大なデータを扱うことから、統計学が非常に発達している分野で、そこにも強く惹かれました。このような経緯で3つの分野に関心を持ち現在に至っています。

3分野それぞれの魅力が
お互いを補完し合う

会計学の研究は、国全体の会計制度に対して示唆を与えることができる点、マーケティング・サイエンスの研究は、個別企業のマーケティング戦略に対して実務的な示唆を与えることができる点、統計学の研究は実社会のデータ解析に限らず、様々な研究分野に対して研究課題を解決できる可能性がある点、などそれぞれにやりがいがあります。また、各分野にそれぞれ魅力がある一方で、異なる3分野の研究を行っていること自体にモチベーションを感じることも多いです。会計学のように国の政策制度について研究を行う分野は、インパクトが大きいですが、1人の研究者の成果だけで国の意思決定に影響を与えることは難しいですし健全ではないと思います。マーケティング・サイエンスは、それ単一で個別企業の課題を解決する可能性もありますが、一方で同時に多くの人たちに対して意味のある示唆を与えることは容易ではありません。統計学をベースとして様々な分野の研究を行うことで、このジレンマとうまく付き合いながら楽しく研究生活を行っています。

加藤先生からのメッセージ

私はこれまで、周りの環境(大学自体や、大学の友人・指導教員など)にかなり恵まれてきました。多くの事象に触れ、自分が興味のあることを見つけるためには、そういった多くの場を提供してくれる恵まれた環境が必要ですし、いざそれを勉強しようと思ったら、同じようなモチベーションを持っている恵まれた友人関係を築ける環境が必要です。さらにそれを探求しようと思ったら、知識が豊富な先輩方や専門家(私の場合は、大学でお世話になった先生方)のいる環境が必要です。したがって、まだはっきり自分の将来やりたいことが決まってないとしても、恵まれた環境を獲得するために、大学受験は非常に重要な機会だと思います。

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