Interview
未だ謎の多いからだの構造
解明のカギは細胞に生えているミクロの毛!?
広島大学大学院 医系科学研究科 教授
池上 浩司 先生
約200種類40兆個の細胞が
正しく働くカギはミクロの「毛」
「複雑なからだの構造がどうやってできているのか?」という謎に挑む研究をしています。からだを形作っている細胞や、細胞の中の更に細かい「細胞小器官」と呼ばれる構造を対象に、おもに顕微鏡技術とゲノム編集技術を駆使して研究を行っています。
私たちヒトの体は約200種類、40兆個の細胞からできており、それらが規則正しく配置され、組織を形作っています。体をつくる細胞の大部分には「一次繊毛」と呼ばれる“ミクロの毛”が1本ずつ生えていて、この一次繊毛は細胞の外の情報(たとえばホルモンや血液の流れなど)を受けとり、細胞が正しく応答するために重要な構造であると言われています。実際に一次繊毛を正しく作るために働いている遺伝子に異常があると、腎臓がボコボコと空洞だらけになったり、指が6本以上になったりなど、体全体に様々な異常が生じます。私はこの、体の中の臓器や体自体を正しくつくるために重要な一次繊毛を題材に研究を行っています。現在は特に、細胞の外の環境変化や細胞自身のリズムなどに従って一次繊毛の形、一次繊毛の中にある分子、一次繊毛の根元にある構造物などがどのように変化するのか、その結果として、細胞や組織の挙動がどのように変化するのか、さらには動物の発生(器官の形成)がどのような影響を受けるのか、などを研究しています。
実は似ている、細胞の「骨」と「毛」
「骨」で起きることは「毛」でも起こるのでは? と考えた
私は元々神経を研究していました。神経細胞は非常に細長い構造(生物の授業でいう「軸索」や「樹状突起」など)を持っています。その構造の中には「微小管」と呼ばれる“細胞の骨”(「細胞骨格」と呼びます)があり、そのおかげで細長い構造を保つことができています。実は、この神経細胞の細長い構造と繊毛にはいくつもの共通点があります。神経細胞の細長い構造は、例えば、痛みや熱さといった細胞の外からの刺激を受けたり、逆に隣の細胞に刺激を送ったりします。「神経伝達」として生物で習うかもしれませんね。一次繊毛が外の刺激を受け取る働きをしていることは世界中でよく研究されていましたが、逆に刺激を外に発信する可能性を考え、一次繊毛に興味を持ちました。さらに神経細胞が外の刺激を受けていろいろと変化することも世界中で昔から研究されていましたから、同じような変化が一次繊毛でも起こるのでは? と考え、今の研究を始めました。
小さな細胞の「毛」の研究が
大きな病気を防ぐかもしれない
研究自体は主に細胞を使った研究ですが、細胞で観察される現象は動物個体でも起きることが予想されますし、動物での発見はヒトの生活にまで適用できます。外の刺激を受けて一次繊毛の中身や形が変化するという発見が、私たち自身の生活の中でも起きている現象にまで広がるわけです。
それら一次繊毛の変化はもしかすると、細胞や組織を傷つける「破壊的」なものかもしれません。その場合、体を刺激やストレスから守るような視点で、一次繊毛の変化を防ぐことで病気を防ぐといった医学的な展開も期待できます。逆に、観察される変化はもしかしたら細胞や組織を健康に保つための「防御的」なものかもしれません。その場合は、それらの変化を人為的に引き起こす手立てを開発することで、体や臓器を刺激やストレスから守るような医学的な展開が期待できます。
このように、一見すると小さな発見や研究が、非常に大きな発展性を持っているところが、研究の面白さだと思っています。
苦手克服も大事ですが、得意科目を圧倒的得意科目に鍛え上げましょう。私は大学受験時、英語はかなり苦手でしたが、理科だけは圧倒的得意科目で、その強みで大学に合格できたと思っています。大学でも授業の単位を落としてしまう程英語は苦手でしたが、大好きで圧倒的に得意な生物学の資料や論文が英語でしか存在しなくなり、そこに書かれている内容を理解したいという好奇心に突き動かされて、いつの間にか英語で文章を書いたり外国人と英語で議論したりできるようになり、英語の苦手意識もどこかに行ってしまいました。つまり、圧倒的得意科目があれば、そこから必要に迫られて苦手科目も克服されてしまうんですね。
また、受験生の皆さんにとって受験勉強は「大学に合格するためのもの」かもしれません。でも実際は、受験勉強は社会に出てから役立つ「教養」そのものです。微分や積分を知っていると、世の中のいろんな現象(渋滞とか薬の効き方とか)を理解することができます。生物学は皆さん自身の体のことですし、化学や物理学は「混ぜるな危険」という洗剤の理解や、自転車や車の運転時のスピードと事故のリスクの理解に役立ちます。地理や歴史を知っていれば、人類の歴史(移動、文化の形成、文明の起こりなど)が互いに密接に関わっていることを理解できます。また、それらの知識は国内外問わず新しい土地に行った時、そこに適応したり、人と話をしたりする時に大きな助けとなります。計算ミスをしないこと、文章を正しく読む能力は、社会で働く時に求められる重要なスキルです。こう考えると、受験勉強は決して「大学に入るためだけ」の勉強ではないことがわかるはずです。受験は人生のごく短期間だけのイベントにすぎません。人生80年という長い視点で「教養を学んでいる」という気持ちで取り組むと、楽しくなるかもしれません。
受験勉強は大変ですが、このメッセージにある内容を少し意識して“楽しく”乗り越えてください。