北海学園大学 法学部 法律学科 酒井 博行 先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

真に公平な裁判のために
民事訴訟法がもつ問題点を考える

北海学園大学 法学部 法律学科 教授
酒井 博行 先生


証拠格差を埋める手続きに「実効性」を

私は「民事訴訟法」に関する様々な問題について研究しています。民事訴訟法とは、個人や企業等が日常生活や事業を営む際に巻き込まれる可能性のある様々な民事紛争(貸金返還、事故などで被った損害の賠償、離婚や相続など)を解決する民事訴訟の仕組みや進め方を規定する法律です。
民事訴訟に関する問題を一つ挙げます。医療ミスの被害者やその遺族が医療機関に対して損害賠償を請求する事件があったとします。この時、被害者側と医療機関側では事件に関して持っている情報や証拠の量に格差があります。そこで、被害者が、ミスが起こった手術に立ち会った看護師の証人尋問を申請し、事実関係を証明しようとする際に、看護師の氏名等に関する情報を入手する手続きを行うにも、裁判所を介さない場合は、情報の提供を求められた者が正当な理由なく提供を拒絶することがあります。裁判所を介さない手続きにはメリットもある一方で、拒絶されたとしてもそれに直接対応する制裁が備わっていないのです。私は2018年に刊行した著書の中で、裁判所を介さない情報収集手続きの実効性をいかにして確保すべきであるかという点についての研究をまとめ、法改正等でこの点に関する手当てをすべきではないかということを主張しました。また現在は、民事訴訟の手続きを運営するために手続き内の様々な場面で裁判官が行使する裁量をどのように規律するかという点に関する研究を進めています。

「隣人訴訟事件」――法と社会の関わりとは

私は大学2年生の時に参加したゼミで、民事訴訟をはじめとする民事紛争を解決するための手続きや、それに関与する弁護士の役割、および、これらの手続きと社会の関係について幅広く学ぶ機会を得たことがきっかけとなり、この分野を研究する道に進みたいと考えるようになりました。特に印象に残っているのは、「隣人訴訟事件(1977-1983年)」と呼ばれるものです。預けた子どもが事故で亡くなったことをきっかけに親が隣人を民事訴訟で訴え、勝訴したということが広く報道された結果、その親には全国から陰湿な嫌がらせの電話や手紙が殺到し……、という一連の事件です。この事件を通じて、法と社会の関わりについて深く考えるようになり、その後、大学3年生・4年生とゼミで学んでいく中で、民事訴訟法の分野に焦点を絞って研究したいと考え、大学院へ進学して現在の職へ就くに至りました。

多面的な思考で様々な問題を探求する面白さ

民事訴訟に関する問題を考える際には、対立する当事者である原告・被告の私的な利益だけでなく、裁判所という国家機関の公的な利益、および、裁判所をはじめとする国家機関の運営を支える納税者であり、将来的に民事訴訟を利用する可能性もある市民一般の利益、といった様々な関係者の利益に目配りする必要があります。このような多面的な思考を通じて結論を導いていくところに、民事訴訟法を研究する面白さがあるのではないかと思います。また、民事訴訟法という法律自体は、基本的にどのような種類の民事事件にも等しく適用されますが、事件には、個人対個人、企業対企業、個人(や多数の個人)が企業を訴えるなど、当事者間の力関係が等しいものや格差のあるものがあります。また、事件の内容についても、伝統的に想定されている比較的単純な事件から、時代の流れによる社会や経済の変化を反映した事件まで様々なものがあり、そこでは新たな問題も出てきます。
例えば、近年では、DVや性犯罪の被害者が民事訴訟を提起する際、被害者の個人情報が加害者に明らかとなり二次被害につながることを防ぐためにはどうすれば良いか、振り込め詐欺の被害者が加害者の身元に関する情報をどのようにして入手するか、企業秘密や知的財産権が問題となる事件で、憲法で保障されている裁判の公開原則と秘密保護の調整をどのように図っていくか、といった問題が挙げられます。民事訴訟という場面を通じて、このような様々な問題について思考を深めていけることにも、民事訴訟法を研究する面白さがあるのではないかと思います。

酒井先生からのメッセージ

皆さんが日本社会や国際社会で起こっている様々な出来事についてテレビやウェブや新聞等で触れたときに、「なぜそうなっているんだろう?」という疑問を抱くことも多いのではないかと思います。大学とは、そのような「なぜ?」について時間をかけて突き詰めることができる貴重な場だと思います。様々なことに対して自分なりに「なぜ?」という疑問を持ち、その疑問に対する自分なりの解答を求めようという意欲を持った皆さんが、大学の門を叩いてくれることを願っています。

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