Interview
歴史研究の面白さを次世代へ
古代中国の新たな見解を開拓
東京学芸大学 教育学部 人文社会科学系 教授
小嶋 茂稔 先生
秦の始皇帝、劉邦、王莽、劉秀たちが生きた古代中国
私の研究対象は、古代中国の秦漢時代です。世界史の授業でも出てくる、秦の始皇帝、劉邦、王莽、劉秀などが出てくる時代です。この時代は、秦の始皇帝が、現在の中国の中核になる部分を統一して、新しい国家統治の仕組みを全国に導入した時期ですので、中国史の中でも特徴のある重要な時代で、これまで多くの研究が蓄積されて来ています。世界史の教科書に出ている「郡県制」や「郡国制」というのも、そうした研究の結果、その内容が明らかにされてきたのです。
私はそのなかでも、後漢時代を分析の主な対象として研究を進めてきました。後漢時代は、秦や前漢時代に作られた国家統治の仕組みが徐々に変化を余儀なくされた時代ですが、そうした変化を当時の地方行政の仕組みに着目して研究し、それまでの後漢時代の研究では明らかにされなかった後漢時代の中国の国家のあり方を明らかにしました。また、最近では、明治以降の日本の歴史学、なかでも中国を研究対象とする「歴史学の歴史」の研究(史学史といいます)や、私の勤務先が教員養成を主な目的としている大学であるので、近代以降の教員養成の歴史や教員養成教育のあり方についても研究の対象を広げています。
歴史の研究の面白さは、過去の事実を記載した史料を読み解くことで、新たな歴史的事実を見出したり、それまでとは違った歴史の見方を提案できたりするところにあると思います。史料の少ない古代史の研究では、新たな事実の発見や歴史の見方を提案することは容易ではありませんが、それだけに、何か新たな見解を提案できた時の喜びは格別です。
「中国の歴史」から派生して様々な研究へ
子どもの頃から歴史が好きで、最初は日本の歴史に関心を持ったものの、次第に歴史的に日本と深い関係にある中国の歴史に関心が向くようになりました。三国志や4世紀からの遊牧民族の侵入による華北の政治的混乱の様子などにも興味も惹かれていましたので、本格的に研究するなら古代の中国史にしたいと思うようになっていました。
ただ、大学に入って東洋史学の専攻に進んで卒業論文のテーマを決める時に、専門的に歴史を研究するためには、単なる興味関心だけでは不十分だということに気づき、それまでの中国史研究の歴史を学んで、その結果として後漢時代を研究することで、それまでの中国古代史研究を大きく見直すことができるのではないかと考えて、後漢時代に注目するようになりました。その狙い通りに研究できたかと言われると心もとないところもありますが、私なりの後漢時代像は提起できたのではないかと思っています。「歴史学の歴史」に関心を持つようになったのも、中国の歴史がこれまでどのように研究されたかと勉強していくうちにそうしたことにも関心を持つようになったからです。
なお、教員養成の歴史や、教員養成教育の在り方を研究するようになったのは、教員養成を最大の使命とする東京学芸大学に勤めるようになったことが大きな理由です。この大学に勤めなければ、こうした問題を自分の研究の対象とすることはなかったと思います。
受験生の皆さんは、いま、受験勉強に追われて大変な時期ではないかと思います。ただ、受験勉強を通して、様々な力が身につくことも事実です。一日一日を大切に、健康に気をつけて、目標とする大学への入学を目指して、頑張って欲しいと思います。