Interview
DNAのような肉眼で見えない生物の神秘を化学の目で見て解き明かす
福岡大学 薬学部 教授
本田 伸一郎 先生
同じ染色体を持っているのになぜ多様な性質の細胞ができるのか
大学では生化学研究室に所属しています。「生化学」とは、生物を化学の目で見る学問です。DNAやタンパク質のような肉眼で見えない分子が、どのようなメカニズムで正常な生命活動、あるいは「がん」のような病気に関係するのかなどを調べます。
タンパク質は、食物を消化して吸収したり、筋肉を動かしたり、細胞が増えるのを制御する機能もあり、生体機能の要です。タンパク質の設計図は染色体DNAに含まれており、DNAから暗合を読み取ってタンパク質を合成するまでの過程を遺伝子発現といいます。遺伝子発現を制御して、個々の細胞ではたらく遺伝子を限定することは、非常に重要です。なぜなら、すべての細胞は同じセットの染色体DNAを持っているので、発現する遺伝子が同じだと、すべてが同じ特徴を持った細胞になってしまうからです。多様な性質の細胞を作るためには、遺伝子発現を制御する必要があります。その役割を担うのが、プロモーターとよばれるDNAの領域です。プロモーターにはタンパク質の情報は含まれていませんが、転写のON/OFFを制御する暗号が含まれています。その暗号を読み取るのも転写因子と呼ばれるタンパク質なのですが、これらプロモーターと転写因子の機能を調べることで、どのようなメカニズムで遺伝子発現がコントロールされているのかを調べることができます。
私は主に遺伝子の機能と本能行動の関係性について、研究をしています。具体的には、ステロイドホルモンの合成を行う酵素の遺伝子発現を調べることで、記憶や不安、性行動などの本能行動に影響を及ぼす神経ネットワークの構築について、分子レベルでの理解を細胞レベル、個体レベルへと理解を深めるために研究を行なっています。
大学卒業後は薬剤師になろうと思っていたが……
現在私が取り組んでいる生化学の分野は化学よりも生物学に近いですが、元々高校時代には生物学にあまり興味が持てず、化学の方が好きでした。私が化学を好きだった理由は、分子レベルで現象を説明できるからです。物質の変化を理論的に説明することができて、曖昧な部分がないところに特に魅力を感じていました。
化学が好きだったので薬物にも興味があり、薬学部卒業後は薬剤師の資格を取ってのんびりやろうと思っていました。ところが、大学に入学して「生化学」に出会い、生物も分子レベルで説明できるということを知って、生物に対する興味がわいてきました。
また、その後の遺伝子工学の発展により、遺伝子を自由に操作できるようになったこともあり、生物の神秘を化学的に知りたいと思うようになりました。
生物の体の精巧さに神様の存在を感じることも
生物の体は、調べれば調べるほどに非常に精巧に作られていることがわかり、その仕組みには驚かされることばかりです。日常ではあまり神様の存在を実感することはないでしょうが、生物システムの巧妙さというのは、「これは誰かが意図的に作ったものではないか?」と思えるほどです。高校や大学などで学んだ知識を最大限に活かして生命の謎の解明にチャレンジすることを考えると、私の好奇心はどうしようもないほどに高く引き上げられます。
生化学に限らずどのような学問でもそうですが、昼夜を問わず研究に取り組み、未解明であった生物現象の謎を解いたときに、世界中で自分しか知らない秘密、生命メカニズムの深淵に触れる感動の瞬間が訪れます。一生に一度でもそのような体験を味わうことができれば本当に素晴らしいことです。たとえそのような体験ができずとも、目標に向かって精進することができること自体も楽しいことですよ。
薬学部の守備範囲は非常に広く、生物系薬学の範疇においては薬に関係することだけでなく、体で起こる現象の全てが学修・研究対象となります。生命体で起こる化学変化の仕組みと意味を正しく理解することが重要です。薬学部では、分子レベルでの生命現象の解明に興味を持ち、研究活動にも意欲的な学生を待っています。
福岡大学公式ウェブサイト
福岡大学 薬学部
https://www.pha.fukuoka-u.ac.jp/
本田 伸一郎先生の研究室
https://www.pha.fukuoka-u.ac.jp/seika
福岡大学_本田 伸一郎先生
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