Interview
「町」というコミュニティを通して
社会の課題を見出す
同志社大学 経済学部 経済学科 准教授
奥田 以在 先生
古文書を紐解きながら
「町」の歴史的変化を明らかにする
私の専門は「近代日本の都市史研究」で、特に京都の町内会レベルの小さなコミュニティである「町(チョウ)」を分析対象としています。
京都は歴史的に見ても非常に文化性の豊かな地で、それは現在にも引き継がれています。しかし見方を変えると、政争と争乱の地でもありました。したがって、そこで暮らす住民たちにとっては、どうやって自らの生命や財産を守るかということが大きな課題だったわけです。このような背景のもとに、中世に成立してくるのが「町」です。この「町」は、京都の発展を支えてきた土台です。例えば、祇園祭の有名な山鉾巡行を維持発展させてきた中心は「町」ですし、近代行政を末端で支えたのも「町」です。ですから、京都は「町衆の街」ということもできるでしょう。
しかし、「町」にも時代の荒波は押し寄せます。「町」はその時々で内部秩序を保つ機能を変化させて、時代に適応してきました。私の研究は、「町」の近代社会における変化を、古文書を紐解きながら具体的に明らかにしていくというものです。「町」はなぜ変化しなければならなかったのか、どのように変化したのかということを描き出すことで、逆に近代という時代を見通したり、時代を超えて普遍的な問題を見出すことができないかと考えたりしています。
先人の悩みから見出す
時代や地域を超えた私たちの「共通課題」
私の研究は歴史研究なので、先人が何に悩み、それにどう対処したのかということを具体的に知ることができます。私が研究してきた中で感じているのは、先人の悩みにも、現代のわれわれと共通するものが沢山あるということです。
もし、時代を超えて共通する問題があれば、それは多くの人が知っておくべき社会的な課題です。ひょっとすると日本に限らず、他の多くの地域でも同様の課題を抱えているかもしれません。時代や地域を超えた共通課題は、社会にとって必要不可欠なルールを導き出すことにも役立つでしょう。多様性が大切な時代だからこそ、逆に多様な人々のなかにも共通する問題を見出せれば、多様で安定した社会の構築にも寄与できるかもしれません。
このように、「町」というコミュニティを通して社会を構成する基礎となる人間そのものを見られることや、そこから様々な社会の課題を見出せることが、私の研究の面白さのひとつではないかと思います。
もともとは「人間」という存在に興味があった
私がこの研究を始めたきっかけは、ある史料との出会いです。私の師となる先生に付いて古文書の調査を行った際に、複数のテーマに分類できる史料に出会い、そのテーマの1つが「町」でした。もともと社会を構成する基礎単位である「人間」という存在そのものに興味を持っていたこともあり、人間がつくる「町」について研究してみたいと思うようになりました。
大学に入ると、自分で問題を発見し、その問題について深く学んでいく場面に出会うでしょう。そのときに知識とともに大切なのは、感性だと私は思っています。色々なことに疑問を感じる感性を大切にしてください。些細な疑問が、大切なことに繋がっている場合が多々あります。皆さん受験勉強で忙しい日々をお過ごしだと思いますが、大学に入られたときに、この事を思い出してもらえれば幸いです。