千葉大学 環境健康フィールド科学センター 渡辺 均先生 | 大学受験予備校・四谷学院の学部学科がわかる本        

Interview

自然界に自生する植物から
新たな農作物を作り出す

千葉大学 環境健康フィールド科学センター
渡辺 均 先生


多用途で有望!国産ヨモギの栽培を目指す

私は、自然界に存在する野生植物や未改良の園芸植物、薬用植物を見直し、新たな農作物として普及させる研究を行っています。イネやトマトなど、長い時間をかけて既に栽培植物(作物)として確立されている農作物はたくさんあります。そのような植物は、生産者が種子をまいて栽培すれば、一定以上の収穫があり、収益を上げ、消費者が安心して食べることができます。しかし、私たちの身の回りには、農作物としてはまだ利用されていない多くの植物(野草、山菜、薬草など)が存在しています。そのような植物の中から有望な植物を見つけ出し、栽培化するところまでを行っています。
一つ身近な植物の例を挙げてご説明しますと、そのような植物にヨモギがあります。ヨモギは、古くから春の新芽を摘んで草餅や草団子にしてきました。野山で切り傷や虫に刺されたとき、ヨモギの葉を摘んでその汁を傷口に塗ると治癒効果があることが経験的に知られています。また、乾燥させた葉は、「艾葉(がいよう)」といって、止血や保温に使われる漢方薬の原料になります。さらに、鍼灸(しんきゅう:針とお灸のこと)で使用される艾(もぐさ)の原料は、ヨモギの葉の裏に密生している毛を集めたものです。このように、ヨモギという植物は、古くから私たちの生活に密接に関連してきました。現在では、食品に使用されるヨモギが海外から数千トン輸入されていますが、国内ではほとんど栽培化されていません。では、実際に身近に自生しているどのようなヨモギが食材に適していて、食品として栄養価が高く、艾葉としての薬効が高く、モグサとして良いヨモギなのか?これらのことは、全くわかっていませんでした。

遺伝子や成分を調べ、産地に合った利用方法を考える

そこで、全国170カ所以上からその地域特有と思われる形態のヨモギを集め、大学の温室内で同じ条件で栽培し、まずは遺伝子型を調べてその違いを明らかにしました。そうすると、日本に自生しているヨモギには、遺伝子型で大きく2つのタイプがあることがわかりました。形態的には見分けがつきませんが、遺伝子型は中国地方あたりで東と西に分けることができました。これは、ヨモギの分布で考えると、ヨモギとニシヨモギという種の分布にほぼ当てはまることがわかりました。次にお灸に向くヨモギはどのようなヨモギで、どこに分布しているヨモギなのかを調べました。そうしたところ、秋田県、山形県、新潟県、福井県、滋賀県、鳥取県、島根県など、おもに日本海側に自生しているヨモギが、葉の裏の毛が長く、収量も多く、お灸に向くヨモギであることがわかりました。逆に太平洋側に自生しているヨモギは、毛が短く、葉も小さく収量が少ないことがわかりました。実際にモグサを生産している工場は新潟県や滋賀県に多く、古くから経験的に同地で良質なヨモギが採れることが知られていたのでしょう。さらに、新たなヨモギの利用法を考える上で、ヨモギに含まれている栄養成分を調べてみました。するとビタミンやミネラルの含有量が非常に高く、野菜としての利用価値や健康飲料としての利用も可能なことがわかりました。近い将来、野菜ジュースにヨモギが入っているかもしれません。また、自生地によってその含有量は異なり、アミノ酸の構成比や抗酸化活性についても90倍ほどの違いが確認されました。現在も食感の違いや薬効成分などを継続的に調べています。

植物がもつ可能性を再評価し
農業生産に結びつける

上記の結果をふまえ、有望なヨモギの自生系統を、実際に自生している地域の近くで栽培し、農作物としての産地化を目指しています。過疎化や耕作放棄地が少しでも減らせるよう現地の生産者と一緒に栽培に関わる様々な課題の解決にも取り組んでいます。
私がこの研究に興味をもつようになったのは、大学3年生のとき、指導教官と一緒に南米へ園芸植物の親(原種)のフィールド調査に出かけたことがきっかけでした。野生植物の多くは、同じ種であっても連続的な変異(遺伝的・形態的)が多く、その変異を見て評価(どこがどのように違うのか?)することで、私たちの生活に役立つ新たな農作物を作り出せるのではないかと思ったのです。特に私たちの身の回りにある、どこにでもあるような植物でも地域性があることに気がつきました。また、身近にある植物であれば、栽培はそれほど難しくなく、農薬や肥料をあまり使わなくても収量を上げられるのではないかと考えました。
その植物の持っている可能性をいろいろな角度(歴史学的、民俗学的、植物学的、農学的、化学的)から見つめ直し、評価し、それをどのように利用して地域に落とし込み、農業生産に結びつけていくのか。出口(売り先)や利用方法を含め、その筋道を考え、学生さんや地域の方など多くの人と意見を交わしながら作り上げていくところが、この研究の面白さです。

渡辺先生からのメッセージ

これまでの経験の積み重ねと幅広い視点や考え方、そして様々な事柄に興味や関心を持つことが、新しいモノや考え方を生み出す原動力になるかと思います。ご自分を信じて、次のステップアップのために頑張ってください。

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