Interview
Xの投稿は、リポストが多いほどリポストされやすくなる?
そのメカニズムを「数理モデル」で解き明かす
千葉大学 大学院情報学研究院、情報・データサイエンス学府・学部 教授
塩田 茂雄 先生
身の回りで生じる様々な現象へ数理的にアプローチ
X(旧Twitter)において、1つの投稿(ツイート)に対するリポスト(リツイート)の回数には大きなばらつきがあります。90%以上の投稿が、せいぜい1回しかリポストされない一方で、10万回を超えてリポストされる投稿も存在します。しかし、その両者を見比べてみると、必ずしも後者が10万倍面白いと感じるわけではありません。Xには「リポストされた投稿は、さらにリポストされやすくなる」というメカニズムが存在します。リポストされた投稿は、リポストしたユーザのフォロワー全員に表示されるため、より多くの目に触れますし、リポストの回数が記載されることで直感的に注目を集めていることが分かり、よりリポストされやすくなると考えられます。この「リポストが多い投稿ほどリポストされやすくなる」というXのメカニズムを取り入れた数理モデルを構築し、リポストの回数分布を予想すると、実際の回数分布と驚くほど一致することが分かりました。私は、このように身の回りで生じる様々な現象の背後に存在する、それらを生み出す根源的な仕組みを、数理モデルを用いて解き明かす研究を行っています。Xにおけるリポスト回数の格差に見られるように、私たちの社会に存在する様々な格差の背後には、「格差が更なる格差を生む」というメカニズムが働いているように見えます。これは、社会学等の分野では「マタイ効果」と呼ばれています。私たちは、このマタイ効果に対して数理的にアプローチすることで、現実の様々な格差の背後にあるルールを統一的に理解し、さらには、格差を緩和する政策の策定に繋げることができるのではないかと考えています。
「渋滞現象の分析」や「IoT端末の通信効率」も研究テーマ
他には「待ち行列理論」と呼ばれる応用数学の手法を用いて、例えば「配車型タクシーの待ち行列」など、実社会に見られる様々な待ち行列の発生メカニズムも研究しています。通信の分野においても、この「待ち行列理論」を用いて、ネットワークの渋滞現象を分析し、それを回避するための方法を検討しています。一方、高速道路でみられる車の渋滞は、これらとは性質が異なっており、待ち行列理論をそのまま適用することはできません。車の渋滞の特性を数学的に理解することも、現在私が興味を持っている研究テーマの一つです。
また、大量のIoT端末が交通整理なく自由に通信を行う状態において、実際にどの程度の効率で通信が行えるのか、ということを数学的に予想する研究も行っています。従来は、基地局が複雑な交通整理を行うことでスムーズな通信が可能でしたが、センサー、カメラ、ロボットなど、あらゆるモノをインターネットに接続するIoT(Internet of Things)時代においては、そのような交通整理は非効率かもしれません。そこで、交通整理を行わずにIoT端末と基地局間で通信を行う方法が研究されているのです。
かつて学んだ物理学の視点で、好奇心の赴くままに探求
大学で自然科学(物理学)を学んだ私は、工学(通信)のテーマを自然科学の視点で捉える癖があります。例えば、先ほどの通信効率の研究では、IoT端末を宇宙に広がる星に、基地局を星々から光を受け取る地球に例えます。無数の星から光が届いても、地球に近い星はそれに負けず輝いて見えるように、IoT端末と基地局との通信は、交通整理を行わなくとも、ある程度成立するのではないか、と予想するのです。また、Xの研究も物理学の研究と似ていると感じます。物質を構成する多数の素粒子は物理法則に従って個別に運動しますが、物質全体としては磁性などマクロな性質が現れます。一方Xでも、ユーザ一人ひとりの、どのような行動ルールが、どのようにして「特定の投稿にリポストが集中する」というマクロな現象となって現れるのか、ということを考察するからです。日々、このようなことを考えながら好奇心の赴くまま自由に知的探究できることが研究の醍醐味であり、やりがいと言えるでしょう。時に予想外の発見ができると嬉しく思いますし、また、学会発表や論文として自分の名前で公表することができれば、それはさらに大きな喜びにつながります。
データサイエンスは、膨大なデータから社会に役立つ知見を引き出す学問で、統計学やAI等を利用して、データの奥底にある法則やルールを解き明かす視点が重要です。また、身の回りのデータを網羅的に収集したり、膨大なデータを高速処理したりするための情報技術も不可欠です。千葉大学の情報・データサイエンス学部では、データサイエンスの医療・看護、環境・園芸、人間・感性といった分野への応用を学びながら、データサイエンスと情報技術の両方を学ぶことができます。データサイエンスを通して社会を変えたい、AI・データサイエンス技術で世界をリードしたい、といった高い目標を持ち、ユニークな発想とデータ分析によって課題解決を目指す意欲的な学生の皆さんの入学をお待ちしています。