Interview
SNSにアップしたその画像、本当に安全ですか?
千葉大学 大学院情報学研究院 准教授
今泉 祥子 先生
画像の中には多くの個人情報が潜んでいる
私は画像処理について、中でも、画像に含まれるプライバシーや著作権を守るための技術を主に研究しています。SNSやクラウドサービスを通じて、私たちは日々さまざまな画像を公開、また共有しています。しかし皆さん、その画像、本当に安全ですか? 画像の中には、顔情報をはじめ、ナンバープレートや表札など、思っているより多くの個人情報が潜んでいます。また、信号の交差点名標識や電信柱の街区表示版からは、その写真が撮影された場所を特定できてしまいます。そうした画像の中に含まれるプライバシーを守る技術が求められています。また、不特定多数のユーザに共有された画像は、その画像のもとの所有者を特定することが困難なケースが多くあります。そのため、画像の著作権を明らかにし、保護することも求められます。このようなニーズに応えて、私は、暗号化や電子透かしといった画像保護技術について研究しています。また、近年では、AIが分野横断的に利用されるようになり、学習済みモデルや学習に利用されるデータの保護も必要となっています。こうした新しいニーズに対しても、研究の幅を広げながら積極的に取り組んでいます。
興味深い講義がきっかけで電気から情報の道へ
もともと学部時代は電気工学科に所属していました。当時、私の大学では、電気工学科と電子・情報工学科とで、必修/選択に設定されている授業は異なるものの、多くの時間割が同じでした。電子・情報工学科での友人も多かったことから、次第に情報の学問に強い興味を持ちました。その中でも、後の指導教員となる先生の授業がわかりやすく、おもしろかったことが、現在の研究に興味をもつようになった一番のきっかけです。デジタルの世界で信号はどう扱われるのか、それが画像に応用されるとどのような処理ができるのか、この授業がとても興味深かったことを覚えています。研究室に配属され、はじめは画像情報を圧縮する画像符号化の研究から取り組みました。その後、現在のセキュリティ分野に足を踏み入れ、ネットワーク上で共有される膨大な画像のプライバシーや著作権を守るための研究に従事しています。
セキュリティ技術は必要不可欠なインフラ
この分野の研究は、いつの時代も広く必要とされているという点が一番のやりがいだと思っています。技術や文化の発展によって、研究のトレンドは徐々に変化していきます。その中でもセキュリティ技術は、決して派手な研究分野とはいえませんが、時代に流されることなく、常に必要不可欠なインフラの一つであると私は考えています。コンピュータの高速化・高機能化によって、セキュリティ技術もより高度で複雑なものが要求されます。この流れに遅れることなく、常に新しい技術を追い求める。どのような分野でも共通することかと思いますが、これが研究の真の楽しさだと思っています。
すべての学問は繋がっています。例えば,理系を目指す人でも,数学や理科に強いだけでは、社会に出たときに困難を感じるときが訪れるはずです。文章を読み書きする力、コミュニケーションを取る力、他文化を理解し受け入れる力、自分がどの分野に身を置いたとしても、さまざまな力が社会生活では求められます。数学は得意だけど、国語や英語は苦手といった人も少なくないのではないでしょうか。今、苦手を諦めてしまったら、将来、必要とされたとき、高校生という今の皆さんのポジションに再び戻って学び直すことは容易ではありません。諦めるのではなく、できる限りこうした苦手を克服する努力を続けながら、進学してほしいと思います。すべての努力は積み重ねであり、一つひとつの努力は近い未来では直接繋がっていないように見えても、長い視点で考えれば決して無駄にはなりません。皆さんの長い人生のどこかで必ず役に立つ日が来るでしょう。努力の数だけチャンスが増える、そう信じて私は日々過ごしています。