Interview
「英語が身につく授業」に必要なものとは?
秋田大学 教育文化学部 学校教育課程 英語教育コース 教授
佐々木 雅子 先生
英語習得の鍵は「文法」ではなく「○○」!
効果的な授業ができる教員を育成したい
言語習得の鍵は「インタラクション(交流・相互作用)」にあると考えています。私は小中高大の英語教育において、「どうしたらインタラクションを媒介にして第二言語(英語)習得が効果的に行われるのか」という研究を行っています。教室内の授業では、インタラクションは、児童生徒同士、日本人の教師(Japanese Teacher of English: JTE)と児童生徒、ALTと児童生徒、JTEとALTとの間で観察されますが、言語習得を起こすには、いつ、どこで、だれが、何のために、どのように行うとよいかを明らかにしたいと思い研究を行っています。
さらに、教室という枠を超えて、海外の学校の児童生徒との交流をどのようにデザインすれば、英語の習得に結び付けられるのかということも研究しています。異文化間コミュニケーション能力の育成が自然と英語力の向上に結び付くような、言語使用と言語学習が一体となる指導について、具体的に提案できればと思っています。私はこれまで、日本とオーストラリアの小学校のインターネット上での対面遠隔交流を行ってきました。時空を超えた交流そのものに意義がありますが、それを英語力の向上に結び付ける方法を探っています。
また、インタラクションを重視して英語を教えられる先生を養成する方法についても研究しています。私の所属する英語教育コースに入学してくる学生たちは、小中高いずれかで英語の先生になることを志望しています。学生にどんな授業を受けてきたか尋ねると、今でも文法中心の受け身の授業を受けてきた学生が少なくないことに驚きます。教育実習前に模擬授業を大学で行ってもらうと、「教わったように教える」、すなわち教師主導型の説明によって英語を教えようとします。そのような言語教育観についての「確信(ビリーフ)」(時に思い込みや固定観念であることも)を修正し、インタラクションを効果的に捉えて授業をデザインできる英語教授力を身につけてほしいと思いますが、なかなか簡単にはいきません。そのため、学生たちにはIntercultural Oral Communication Project (IOCP)と題したALTやCIR(Coordinator for International Relations)との異文化間交流を経験してもらいます。この異文化間交流を通して、学生たちはコミュニケーションの楽しさだけでなく英語を学習するコツのようなものを感じ取るのです。
魔法のような経験をきっかけに
英語の授業に対する考えが変わった
私は高校時代英文法が大好きでしたが、大学でのリスニングとスピーキングの授業では劣等感を感じていました。当時の私には、英語が生きたコミュニケーションのための「ことば」であるという感覚がまったくなく、大学の授業でネイティブ・スピーカー(NS)の話す英語はほとんど理解できていない状態でした。そんな中、大学2年生の夏に18日間のホームステイ付きの語学研修に参加しました。なんと、帰国したら、授業でNSの話す英語がすべて理解できるようになっていました。これには驚きました。たった18日間でこんなに変わるのか、魔法のようだと思ったことは今でも鮮明に覚えています。また、大学の教員となってから、オーストラリアのグリフィス大学との共同研究を進める中で、数時間にわたって英語でディスカッションすることを何回か経験しました。英語での議論についていくのは大変でしたが、終わってみると論理的に英語で話す能力が短期間で格段に伸びたと感じました。どちらの場合も机に向かって単語を暗記したり読解問題を解いたりして勉強したのではなく、冷や汗をかきながら必死になって英語を使っている間に伸びたものでした。何らかの刺激を受けて何かが全体的に変化したのだと感じました。 このような経験から、暗記積み上げ式の授業ではなく、英語を使用しているうちに英語が身につくような授業が効果的なのではないかという直感を持つに至りました。多くの時間を語彙の暗記や文法の理解の学習に費やし過ぎることなく、使いながら英語力を高められる授業で多くの児童生徒が英語を使えるようになってほしいという思いが、現在の研究を行うきっかけとなっています。
国内外の研究者からのコメントが
次の研究のヒントになる
研究には終わりがなく忍耐が必要なことも度々ですが、学会で発表した際に受ける質問やコメントからヒントを得られることはとても励みになります。例えば、先日ある国際学会でNew insights into early language learningというテーマのシンポジウムで発表しました。そこで、小学校での異文化間交流における日本語と英語の使用選択に関して発表したのですが、フィンランド、ドイツ、ギリシャなどの研究者たちとの質疑応答やコメントのやり取りから、国や文化が異なっても同じ問題を認識し、研究によって解決策を模索していることを知りました。国内外の研究者とのやり取りから、次の研究へと進めていくヒントを得られることは知的刺激にあふれています。
英語教育は大きな過渡期にあります。効果的なインタラクションができる教師を目指し、英語科教育をよりよいものにしていく人材を育成したいと思っています。是非秋田大学で一緒に追究しませんか。その試行錯誤はきっと楽しいものと思います。受験勉強は大変なことと思いますが、その過程で理解力、思考力、表現力などを身につけることで、大学での学習や研究の準備となると思います。皆さんが、少しずつ確実に力を伸ばし、自分の成長を楽しめるようにと願っています。