文学
どんな学問?
文学は「謎解き」!
「文学」はみなさんの日常生活にあふれています。映画『ハリー・ポッター』シリーズは児童文学ですし、『ロード・オブ・ザ・リング』はイギリスで1950年代に出版された『指輪物語』が原作です。日本のTVドラマや映画にも、小説など文学をもとにしたものがたくさんあります。このように見てみると、みなさんも「文学」というものを身近に感じることができるのではないでしょうか。
文学研究で大切なことは、漫画でも小説でも、ストーリーを面白いと思うだけでなく、「どうして作者はこんな作品を思いついたのだろう」「なぜ私はこのストーリーを面白いと感じるのだろう」という素朴な疑問をもつことです。
学問として「文学作品を読み解く」とは、作品をただ読んで楽しむこととは違います。文学の研究では、小説や詩、戯曲などの文章作品(テキスト)(参照)を読み、歴史的な背景、宗教的な影響、そして作者自身について追求していきます。また、作者の考え、その作品に込めた想い、作品を通して表現したかったことなども細かく分析していきます。作者の育った国や時代、作品が成立した時代の社会背景や政治的・国際的状況によって、1つの言葉に込められている意図も大きく違ってきます。「こういうことだったのか!」と驚き、言葉の裏にある思いがけない深みにふれることで、本を読むことの楽しさに改めて気がつくことでしょう。文学は、研究の対象から、大きく「日本文学(国文学)」と「外国文学」に分類することができます。
1.日本文学
日本で創作された、あるいは日本語で書かれた物語・小説・詩・歌・その他の文章すべてが研究対象です。古くは「上代」と呼ばれる奈良時代の『古事記』や『風土記』から、夏目漱石や芥川龍之介など教科書に載っている小説家の作品、そして村上春樹など現在活躍している作家の小説、エッセイ、戯曲も盛んに研究されています。
下記に代表的な作品を挙げてみました。これまでに読んだことのある作品もあるのでは?
2.外国文学
日本以外の国で発表された、日本語以外の言語で書かれた文学作品が研究対象です。日本文学の場合と同じように、ただ作品を読むだけでなく、文章や表現の研究を通じてその作品の成立事情を推測し、その国の歴史・文化・思想・社会状況・言語などへの理解を深めます。
主な分野として、英米文学・フランス文学・ドイツ文学・中国文学などがあります。各分野の代表作品を見てみましょう。
Q&Aこんな疑問に答えます
Q.
どのような人が文学に向いていますか?
A.
文学というと、「本を読むのが好きな人向け」と思うかもしれませんね。もちろん研究テーマに関する論文、文献など文章を読む機会は多くなりますが、それはどんな学部・学科の学生でも一緒です。それ以上に、本を読んで「どうしてこういう本が書かれたのかな」と作品の背景にある歴史や文化などに興味をもったり、「このセリフ、かっこいい言葉だなあ」と言葉そのものに魅力を感じたり、「もっと楽しく本を読めるようになりたい!」と感じている人が文学に向いていると言えるでしょう。
Q.
文学部の英文学科と外国語学部の英語学科は何が違うんですか?
A.
文学部の英文学科では英語が話せるようになることよりも、文学作品や作者の研究が重要なテーマとなります。英会話や現代英米語など、コミュニケーションの手段として英語を学びたい場合は、外国語学部の英語学科への進学を考えた方がよいでしょう。
Q.
英語が得意でなければ英文学科は難しいですか?
A.
外国文学の原書(参照)を主な研究対象とするため、その国の言語の知識は必要となります。しかし、外国文学を学ぶ場合は外国語の授業も充実していますから、入学してから知識を身につけることもできます。日本語で書かれた翻訳書を併用しながら授業を進めることも多いので、フランス語やドイツ語の場合は受験する時点で知識がまったくなくても心配ありません。あえて言うなら、外国文学では世界史の知識、日本文学では日本史の知識があると役立ちます。
Q.
文学部は就職に不利と言われていますが本当ですか?
A.
就職試験では出身学部は問われませんし、「文学部だから就職に必要な能力が身につかない」ということもありません。就職活動の際には、「学生時代、何に意欲的に取り組んできたか」「自分の能力をどのように磨いたか」を評価されます。就職試験で大学での勉強に一生懸命取り組めたと自信をもって言えるように、自分が何に興味をもっていて、どういうことを勉強していきたいのか、今のうちから考えておくとよいかもしれませんね。
ひとことコラム
源氏物語の作者は?
全世界で翻訳され、高く評価されている世界最古の長編小説といえば、もちろん『源氏物語』。作者が誰かと聞かれれば、誰だって「紫式部」と答えるでしょう。ところが、専門研究者の間では、『源氏物語』は紫式部が1人で創作したものではなく、宮中に仕える大勢の女房たちなど多くの人々に読み継がれる過程で様々なエピソードが付加され、その結果として壮大な物語になったという視点からも研究が進められています。このように、文章の内容を読み解くだけでなく、その作品が生まれた経緯を調べるのも文学研究の1つなのです。
こんな研究もあるよ
「歌詞」を読み解く
文学ではあらゆる文章作品が研究対象となるため、物語や小説だけではなく、音楽の「歌詞」を研究することもできます。
例えば、特定の歌手が作った歌詞からその歌手の考え、流行した時代の生活や社会の状況、その歌を支持した世代の意識を読み解くなどといったことも研究です。また、過去20年のヒット曲の歌詞を統計処理し、各時代に流行っていた言葉と社会情勢との関わりを考えるという「社会学」や「文化学」と結びついた研究も行われています。
みなさんの身の回りにある文章も新しい文学の研究分野にできるかもしれませんね。
卒業後の主な進路
探求心や好奇心を活かして幅広い進路
文学部に本が好きな人が多いことは事実ですが、就職先は本に関連していない場合がほとんどです。
一般企業へ就職する場合は、文学そのものの知識だけでなく、文学を勉強するうえで身につけた探究心や興味を活かすことができます。業種もメーカー、情報・通信業、小売業、卸売業、金融・保険業、飲食業など実に様々です。「専門性を活かしたい!」という人の間では、出版などのマスコミ関連、広告代理店、航空関係、グランドスタッフ、外資系企業などが人気です。また専攻を活かして中学・高校の教員や日本語教師を目指す人や、大学院へ進学して研究を深める人もいます。
韻(いん)
詩の技法の1つで、似たような響きをもつ発音の言葉を詩の中に組み込む言葉遊びのこと。短い詩の中にリズムを生み出します。特に、文章や句の最後に同じ韻の言葉をつける「脚韻」(きゃくいん)というスタイルは、中国の漢詩の他に、現在でもラップミュージックや欧米の歌詞に多く見られます。
原書
外国で出版された外国語の本のこと。大学によっては「原書講読」という講義があります。これは日本語に翻訳された文章を使用せずに、外国語で書かれたものを読み進めていく講義です。
写本
原本を書き写した本のことです。昔はコピー機がありませんので、書物を手元に残すには手で書き写すしかありませんでした。複数の写本を比べたり、写本の発生した場所や時代をたどったりすることが、もともとの作品の内容や成立した年代を特定するヒントになることもあります。
テキスト(テクスト)
教科書のことではありません。作品や文章そのもののことを指します。言語学や文芸評論の用語としても使われています。