国際関係学
どんな学問?
平和で豊かな世界実現を目指して
いきなり「国際関係学」といってもスケールが大きすぎてイメージがつかみにくいかもしれませんね。まずは、学校生活について考えてみましょう。いつも意見がぶつかり合ってまとまりにくいクラスと、クラスメイト全員が理解し合って一致団結しているクラスとでは、どちらがよいと思いますか?国際関係学とは、後者のように誰もが望む環境を地球規模で考え、追求していく学問です。
国際化が進んだ現代においても、地域間の紛争は絶えません。また、環境問題や核問題など地球規模の視野で考えていかなければならない課題は山積みです。しかし、それぞれの国の歴史・文化・制度の違いなどが問題解決を困難にしています。国と国とが理解し合い、平和で豊かな世界の実現を目指すにはどうしたらよいか、多角的に探っていくのが国際関係学です。
国際関係学では、法学や経済学、「国際関係学概論」などの基礎科目を学んだあと、以下のような分野に分かれて専門的に研究を進めていきます。
1.国際政治経済学
各国の政治や経済を中心に学び、「世界平和とは何か」を考える学問です。例えば、核保有国と非核国、先進工業国と発展途上国の違いなどが生み出す摩擦とその解決策などが研究対象です。また、国同士が協力することで実現する安全保障や、相互援助、国際協力の要(かなめ)である国際連合についても研究します。
2.国際社会学
世界を変えていくのは「脱国家的存在」、つまり「国家」という枠組みを超えた「個人」であるという視点から国際関係について考えていきます。国境を越えて活動するNGO(非政府組織)や市民運動などがこれに当たります。
3.国際文化学
国や地域ごとで異なる文化について比較研究する学問です。言葉やふるまい、食事など、その国や地域の文化は人々の意識に深く根づいています。そのため、国境を越えて人が触れ合うとき、文化の違いは大きな課題となります。そうした違いを理解し、互いの文化を受容しやすくすることが、この学問の目的です。
他にも、外交の歴史を学ぶ「国際関係史」、アメリカ・アジア地域・イスラム諸国など各国・地域・文化圏を研究する「地域研究」などがあります。
Q&Aこんな疑問に答えます
Q.
どのような人が国際関係学に向いていますか?
A.
国際関係学は、総合的な知識を身につけ、多くの情報を収集・分析する力が求められます。ただし、あらかじめそのような能力が必要なわけではありません。世界に目を向けて様々な国際問題を解決したいという意志がある人、海外を視野に入れた仕事をしたいと考えている人、制度や文化の違う国について知りたいと思う人など、国際的な関心が強い人にお勧めの学問です。国際問題に興味をもって、しっかり学んでいくことが、多角的な視野をもった国際人になるために一番必要な資質なのです。
Q.
政治学とはどう違うのですか?
A.
政治学では、一国をどう統制するべきか、どういう政策をとるべきかを中心に考えます。一方、国際関係学では、それぞれの政治システムをもった国同士がよい関係を保っていくためにはどうするべきかを考えます。しかし近年では、政治学を学ぶ学部の中にも「国際政治学科」が設置されるようになりました。これは、政治において国際的な視点が重視されていることの表れでしょう。
Q.
国際関係学を学ぶと、語学を身につけられますか?
A.
国際関係学で学んだ知識を活かすためには、語学力も必要不可欠です。英語はもちろん、中国語などアジア地域の言語やフランス語、スペイン語、ロシア語、アラビア語などを学べる大学も多くあります。少人数のクラスでディベートやディスカッションの練習をするなど、しっかりと自分の意見を主張できるようになるための授業が多いのも、国際関係学系のカリキュラムの特徴です。
G7/G20
G7は日本・フランス・アメリカ・イギリス・ドイツ・イタリア・カナダの7ヵ国。毎年、G7の首脳および欧州連合の欧州理事会議長と欧州委員会委員長が集まり、主要国首脳会議(サミット)を開催しています。日本では2016年に伊勢志摩サミットが行われました。G20はG7と欧州連合に加え、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコを加えた20か国・地域。2019年には日本で初めてG20サミットが開催されました。
難民
もともとは政治的・宗教的な迫害により生活の根拠を奪われ他国・地域へ避難する人々を指す言葉でしたが、近年では自国の武力紛争や人権侵害から逃れるために国を離れる人々が急増しています。近年、ドイツは110万人もの難民を受け入れましたが、そのことがドイツ国内だけでなく避難経路となる周辺の国々にも影響をもたらしました。UNHCR(国連難民高等弁務官)を中心に、世界各国が協力して早急に取り組むべき問題の1つとなっています。
マイノリティ
ある社会集団の中で少数派の人々のことです。その多くは、社会的・経済的・文化的地位が低いことがあります。この言葉が生まれたアメリカでは、黒人が差別の撤廃を求めてデモを行ったり、R&Bやジャズなどの黒人音楽、ラテンミュージックが流行ったり、黒人を父にもつ大統領が誕生したりと、マイノリティの地位の向上や彼らの文化を認めることを目指す動きがあります。
歴史教科書問題
歴史の認識が国によって異なることから生じる国際問題の1つ。例えば、太平洋戦争中に日本が中国や朝鮮半島に対して行った政策への認識は、三国間で大きく異なります。教科書の記述がどの立場から書かれるべきかが問題となっています。
こんな研究もあるよ
真の国際人を目指して
国際化が進み、生活のあらゆるところに「外国」が入り込んでくる今、「世界の中の日本」について考える研究が注目されています。例えば、様々な国の教科書で日本がどのように紹介されているかを調べることで、世界の人々が日本をどのような国だと認識しているのか知ることができます。なかには、「日本人の家の中には家具がない」などという記述もあり、驚かされます。外国に行くと「日本はどういう国ですか?」と聞かれることもありますが、いざ説明しようとすると言葉に詰まってしまう人もいるでしょう。様々な国を理解し、よりよい関係を築いていくためには、まず自分の国のことをよく知る必要があります。真の国際人を目指すためには、自分の国の歴史や文化を理解し、自分の言葉でしっかりと紹介できる力をつけておきましょう。
卒業後の主な進路
海外進出企業からの需要大!
外交官や国際公務員を目指す人も
国際関係学を学んだ学生の主な進路は、一般企業への就職です。分野は、情報・通信、運輸、旅行業界、銀行、商社など様々です。海外に進出している、もしくは今後進出していく可能性がある日本の企業にとって、国際関係学を通して身につけた広い視野と国際感覚は、需要が高いと言えるでしょう。また、わずかですが、日本の外交を担う外交官や国連で働く国際公務員になる人、新聞記者などマスコミ関連に進む人、大学院に進み研究を深める人もいます。
ひとことコラム
え!そんな意味があるの!?
近年、日本では10~20代の若い人たちを中心に、ピースを逆にした「裏ピース(逆ピース)」というポーズで写真を撮る人が増えています。しかしこのポーズ、海外では中指を立てるポーズと同じように相手を侮辱する行為になってしまうことがあります。写真撮影を頼むときやSNSに写真を載せるときは注意が必要です。他にも「ピースサイン」や「OKサイン」がよくない意味を表す国や文化もあるようです。
私たちが当たり前にやっていることが、文化が違う人にとってはとんだ失礼になることも実はしばしばあるのです。「電車で隣に座った人が外国人」ということも珍しくない現在、世界中の人々とよい関係を保つ方法を学ぶ国際関係学は、案外身近な学問なのです。