薬学
どんな学問?
「クスリ」を通じて人々を救う!
「薬学」は、「クスリ」という視点から医療に貢献する学問です。化学や生物学、人体のしくみなどといった知識も必要とし、医学や看護学との連携もあります。ここでは、薬学の研究領域を「創薬学系」「衛生薬学系」「医療薬学系」の3つに分けて見ていきましょう。
1.創薬学系
病気の原因や実態を明らかにし、治療につながる新薬の開発を目指します。癌(がん)など死亡率の高い病気や新しい病気に対する治療薬の開発は課題の1つです。薬の安全性や効率的な生産方法、副作用についても研究します。
2.衛生薬学系
人の生命・健康維持を目指す分野です。栄養素・添加物・細菌・ウイルス・中毒・免疫・遺伝子などをテーマに研究を行います。また、病気を発症させない「健全な環境づくり」も目指していきます。
3.医療薬学系
薬学の知識を臨床現場に活かす分野です。具体的には、病気に対する薬の働きや副作用を分析し、副作用の少ない使用法などを研究します。ここで学んだことが、「薬剤師」として病院や薬局で働くための基礎となります。
大学の授業では、実験や実習も重視されます。分野によって違いがありますが、具体的には最先端の顕微鏡を使った実験や動物を使った実験、調剤実習、服薬指導の実習、薬局・病院での実務実習などがあります。
Q&Aこんな疑問に答えます
Q.
どのような人が薬学に向いていますか?
A.
薬の創造は、開発の難しさと人命に関わる厳しさを合わせもった分野です。薬の調合や創造には正確な作業が必要ですので、几帳面で集中力のある人が向いています。さらに、チーム医療において、薬剤師として医師や看護師と治療方針を話し合う際や、薬の服用説明や相談を患者とする際、コミュニケーション能力は必要不可欠なものです。探究心と責任感が強く、人間に対するやさしさのある人が薬学に向いていると言えるでしょう。
Q.
薬学部には4年制と6年制があるそうですが、違いを教えてください。
A.
4年制では「研究者の養成」を目的とし、薬学の基礎を学んだあと、研究室に所属して専門分野の研究を行います。製薬企業や研究機関で新薬の開発などに携わっていくような人材を育成します。一方、6年制では「薬剤師の養成」を目的とし、専門性の向上、チーム医療の一員としてのスキルアップのため、薬学の基礎を学んだあと、病院や薬局で半年間の実習を行うなどのカリキュラムが組まれています。よって、薬剤師になりたい人は6年制の薬学部に入学しましょう。なかには、入学前に4年制・6年制が分かれておらず、入学後に進路を決められる大学もありますが、数はごくわずかです。
ひとことコラム
「薬」が私たちに届くまで
薬の開発が始まってから世に出るまでは10年以上の歳月がかかります。薬は人の命に直接関わるものなので、研究開発は大変慎重に行われます。ここでは、1つの薬ができるまでの過程を見ていきましょう。
1.候補物質(シーズ)の作製
生物学や有機化学を用いて、動植物などからの成分抽出や化学合成で化合物が作り出されます。
2.スクリーニング
候補物質から有望なものを選び出し、薬として最適なものに改良します。
3.前臨床
動物を使って試験を行います。
4.臨床実験(治験)
実際に人に投与して効果と安全性を確認します。
5.厚生労働省の審査
以上5つの段階を経て「候補物質」は「薬」としてみなさんの手に届きます。薬の開発は、とても時間と労力がかかるものです。でも、1つの薬を開発することで多くの人を助けることができる、それも薬学の魅力ですね。
こんな研究もあるよ
地球にやさしいクスリ
これまで、薬を生成するには多数の化学反応を経る必要がありました。またそのために有害な溶剤などを必要とし、生成後には大量の廃棄物を出してきました。しかし最近では、一度の反応で複数の合成を行うことで段階を減らし、有害物質を減らそうという「多成分合成法」や、別の合成法で薬を生成する「フルオラス合成法」を用いることによって、廃棄物を軽減することが可能になりました。最近よく耳にする「3R(Reduce・Reuse・Recycle)」。薬の分野でも着々と研究が進められています。
卒業後の主な進路
薬剤師を目指す人が多数!
やはり薬剤師を志す人がほとんどです。そのなかでも人気なのは病院勤務ですが、枠が少ないため、実際には薬局勤務がトップ、それに次ぐのが病院や診療所です。他には製薬企業への就職がありますが、開発部門に就けるのは全体の1割程度で、多くはMR(下記参照)として活躍しています。
また、研究職養成を目指した4年制課程の卒業生の多くは大学院に進み、薬についてさらに知識を深めたうえで大学や製薬企業で開発・研究に携わるようです。その他には、食品産業や化粧品産業、あるいは行政機関への進路もあります。
MR
Medical Representativeの略語。医薬情報担当者のこと。製薬会社に所属し、医薬品に関する効能などの情報を提供し、使用後の情報収集を行う人のことです。MRの一番の仕事は、医師から伝えられた副作用情報を他の医師や製薬会社にフィードバックすることにより、薬剤の安全性を高めることです。
MSL
Medical Science Liaisonの略語。製薬企業などにおいて販売促進を目的とせずに、医学的・科学的な面から専門医に情報提供を行ったり、製品の適正使用の推進や製品価値の至適化を支援する職種。MRと似ていますが、MRには自社製品の営業活動があるのに対し、MSLは営業やマーケティング部門から独立し、自社製品の宣伝や営業活動は一切行いません。(MRは6割近くが文系出身者ですが、MSLは医学・薬学に関連する博士、修士等の学位取得者が望ましいとされています。)
共用試験
薬剤師養成を目指す6年制学科・コースでは、5年生で医療実習の前に共用試験に合格しなければなりません。共用試験はCB(Tコンピュータを活用し、知識の評価・思考力・問題解決能力を評価するもの)とOSCE(診察技能・態度を客観的に評価する臨床能力試験)に分けられます。
ジェネリック医薬品
新しい効能の有効性や安全性が認証された医薬品は、先発医薬品として20~25年間特許に守られ、開発したメーカーが独占的に販売できます。しかし、特許期間が満了すると、薬の有効成分は国民共有の財産とされ、厚生労働省の承認を得れば開発メーカー以外でも製造・販売が可能になります。こうした医薬品をジェネリック医薬品(後発医薬品)と言います。
Interview
薬用植物の品種改良という視点から薬学の発展を目指す
山口東京理科大学
薬学部
田中 宏幸先生
今ある薬に焦点をあてて
薬学部というと薬の開発をしているイメージがありますが、それだけではありません。最近では今ある薬をよりよくする研究や、より適切に使用する研究も注目されています。私は、薬の原料であり健康食品の材料でもある“薬用 植物の品質をいかに高めるか”という研究をしています。そして、よりよい薬用植物を、より多く、より低コストで生産し、世界中の人に活用してもらうことを目標としています。私の研究対象の1つに、「甘草(かんぞう)」という植物があります。この甘草に含まれる「グリチルリチン」という成分には、抗アレルギー作用があります。甘草を薬として使うためには2.5%以上のグリチルリチンが必要であることから、甘草の品質を評価する指標にもなっています。つまり、より多くのグリチルリチンを含む甘草をピックアップして品種改良することで、より確実に優良(グリチルリチンを多く含む)な甘草が得られるようになるのです。また、グリチルリチンの多さは見た目ではわからないので、効率的で確実に、環境にやさしいシステムで含有量を調べる方法の確立にも力を入れています。そしてその方法が一般的に利用されるようになるとよいと思います。
古来の薬草も研究対象
世界には約3万種類の植物があり、その10%が薬草と言われています。そして太古の昔から薬草の発見は偶然の産物です。昔、ある人がおいしそうだと思ってある植物を食べて倒れた、そこからその植物には毒性があることがわかります。逆にある植物を食べて風邪が治れば、そこから薬が作られていったのです。例えば「ケシ」は数千年前から鎮痛剤として使用されていました。また、「ティーツリー」という池のそばにある植物は、そこで泳いでいたら傷がよくなったという伝説があり、今では抗菌やデオドラントに利用されています。また薬草であっても、たくさん摂りすぎて悪い効果が出れば、そこから副作用や使用方法の存在があるということがわかり、これが経験として蓄積されてきたのです。
薬学部から開ける可能性
薬学部は将来の職業の選択肢が多い学問だと思います。例えば、高齢化社会でニーズの高
まる薬剤師や研究員、アドバイスをすることによって薬の価値を高める薬品の営業や販売員が挙げられます。また薬学部の研究では、他のどの研究者も専攻したことのない研究に取り組むこともあります。それは小さなことかもしれませんが、世界初なのです。そしてそれは自分の手で結果を出せることであり、同時に将来大きなことにつながるかもしれないことなのです。そういう夢をもって研究や仕事ができるのは、素敵なことだと思います。
田中先生からのメッセージ
独創的な結果を出そうとするとき、アイデアを実現するとき、そのベースになるのは基礎的な知識です。先人が蓄えてきたアイデアや結果を幅広く吸収し、十分に自分のものにしていくことが大切です。今は、ただひたすら覚えるという勉強が楽しくないかもしれませんが、その努力は必ず夢につながるので、前向きにがんばってほしいと思います。