看護学・保健衛生学
どんな学問?
医療現場を支えるスペシャリストとして
医療の現場で活躍しているのは、医師や看護師だけではありません。病院や診療所ではみんな同じような白衣を着ているので目立ちませんが、専門の検査や治療を担当する医療スタッフがたくさん働いています。彼らは「コメディカルスタッフ」(参照)とも呼ばれます。
大学では、どの学科にも共通する専門基礎分野として、人間の身体のしくみや働きなどを学びますが、専門科目の内容は学科によって大きく異なります。それは将来、実際に医療スタッフとして働く際に必要な専門知識や技術の習得に重点を置き、分野別のスペシャリストを育てるための教育を行っているからです。なかでも代表的な分野を4つ紹介しましょう。
1.看護学
「看護師」の養成を目指す学問です。看護師は医師の治療サポートや患者が療養するための世話を行います。具体的には、患者の状態を把握すること、患者の療養環境を整えること、精神面のケアをすることなどが仕事です。専門分野として、ライフステージごとの特徴や看護方法を学ぶ「小児看護学」「成人看護学」「老年看護学」や、「地域看護学」「在宅看護学」といった分野も学ぶことで、実際に看護をするための理論や技術を身につけていきます。3・4年生になると提携している病院で看護実習を行い、現場で活躍できる力を身につけていきます。
2.臨床検査学
「臨床検査技師」の養成を目指す学科です。臨床検査技師は心電図検査や脳波検査など器具を使った検査や、採血・検尿・検便による検査を行うことによって、医師が患者の治療を行うためのサポートをします。検査方法を学ぶ「遺伝子検査学」「微生物検査学」、検査の対象となる人間の身体を詳しく知る「組織細胞学」、検査機器の操作方法を学ぶ「検査機器学」などを専門的に学んでいきます。
3.臨床工学
「臨床工学技士」の養成を目指す学科です。人工呼吸器や人工心肺装置などの生命維持管理装置の操作や、安全に使用できるよう点検整備を行うのが臨床工学技士の仕事です。主に機械とシステム制御のしくみや、機器の操作方法、管理・点検方法を学んでいきます。
4.理学療法学
「理学療法士」の養成を目指す学科です。身体の障害に対して、その原因を把握し、体操やその他の運動による運動療法や、温める・冷やす・電気刺激を加えるといった物理療法によって、基本的な身体機能の回復を目指した治療を行います。スポーツ選手のトレーニングやリハビリを担当することもあります。
ここで紹介した学科の他にも、レントゲン撮影や放射線治療を行う「診療放射線技師」、音声・言語・聴覚機能のリハビリを担当する「言語聴覚士」、義足やギプスなどを作る「義肢装具士」、そして「救急救命士」などを目指す学科やコースがあります。
また最近では「専門職連携教育(IPE)」を導入している大学も増えています。各分野の学生が一緒に学ぶことでお互いの分野も理解し、現場でのコミュニケーションを深めていくシステムです。
Q&Aこんな疑問に答えます
Q.
どのような人が、看護学・保健衛生学に向いていますか?
A.
「医療を通して人の役に立ちたい」という強い意志と、「この人がよくなるために自分に何ができるだろう」と自ら主体的に考える姿勢が、コメディカルスタッフには欠かせません。病気や怪我(けが)をした患者と向かい合うことも多いので、つらい状況に置かれることも少なくありません。理想をもつだけではなく、その現実に向き合う覚悟も必要です。また、患者やその家族と向き合う際には、相手の話をしっかりと聞き、心配りをする力も必要となるでしょう。
Q.
大学の看護学科と専門学校や短大の看護学科の違いは?
A.
専門学校や短大は履修期間が3年なのに対し、大学は4年です。専門学校では、卒業後に即戦力として活躍できるように看護技術の習得に力を入れており、実習が多いカリキュラムになっています。大学では医療の高度化、多様化に対応できるように基礎から理論をしっかり学び、専門性を身につけることを重視しています。一般教養科目も充実しており、幅広く学べます。また、ほとんどの大学で保健師、一部の大学では助産師など国家試験受験資格を取得することができます。短大は専門学校と大学の中間の位置付けですが、近年は4年制の大学に移行する短大が多く、減少傾向にあります。
Q.
理学療法士と作業療法士は何が違うのですか?
A.
いずれも「リハビリテーションの専門職」とされていますが、それぞれの目的には以下のような違いがあります。
● 理学療法士:基本的動作能力(座る・立つ・歩くなど)の回復
● 作業療法士:応用的動作能力(日常生活の動作)や社会的適応能力の増幅
例えば事故で手首を骨折した場合、まず折れた骨を修復しつなぎ合わせるのが医師の仕事、次に手首の基本機能を回復させるために運動療法・物理療法を駆使するのが理学療法士の仕事、そして手の動きがよりスムーズになるように手芸・編物・織物・陶芸・園芸など作業種目を用いるのが作業療法士の仕事です。
こんな研究もあるよ
考えるだけでモノが動く!
――「ブレイン・マシン・インターフェイス」
病気やけがで体が動かなくなった人でも、頭で考えるだけで自分の体や、周りの電子機器を動かすことができる。それを可能にするのが「ブレイン・マシン・インターフェイス」という技術です。まず患者は頭にヘッドセットを、体に電動装置を身につけます。そして「指をこう動かしたい」など考えます。するとヘッドセットがそこで発生した脳波を解析し、電気信号に変換して筋肉に送ります。そうすることで思ったように指を動かすことができるのです。電気信号を筋肉ではなく電子機器につなげれば、「テレビを見たい」と思ったときにテレビをつけ、「暑い」と思ったときにエアコンをつけることもできます。また、装置を使って脳と筋肉をくり返し動かすことで脳の活動が正常な状態に近づき、筋肉と連動するようになります。体の動きを助けるだけでなく、患者の体の機能を取り戻すという面でも期待されています。
この技術を実用化するためには技術面だけでなく、安全性やコスト、社会制度の整備、倫理面なども課題となっていますが、現在、各分野の専門家が研究や実用化を進めています。
ひとことコラム
これがチーム医療だ!
医療現場では、様々なスタッフが協力し合いながら働いています。チーム医療の流れを見てみましょう。
卒業後の主な進路
各分野のスペシャリストとしてチーム医療に貢献!
各学科ともスペシャリストを養成することが目的ですが、いずれの場合にも医療現場で活躍するためには、毎年2・3月に行われる各資格の国家試験に合格しなければなりません。大学卒業後の進路は、資格によって若干異なります。
● 看護師の勤務先は病院が全体の約70%と最も多く、続いて診療所、介護保険施設・社会福祉施設、訪問看護ステーションとなります。他にも少数ではありますが、市町村役場や保健所、企業内の看護師として働く人もいます。
女性の場合、結婚しても看護師を続ける人が多いのが特徴です。また、最近では男性看護師の割合も年々増加傾向にあり、体力のいる救急や介護現場などでの活躍が注目されています。
● 臨床検査技師や診療放射線技師は、主に病院や診療所、研究・検査機関などで働きます。臨床工学技士も病院や診療所が主な就職先です。また、臨床検査技師の場合は、製薬会社や食品会社などに就職して、実験や検査を担当することもあります。
● リハビリテーションに携わる理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士は病院や診療所、福祉施設などに就職しています。リハビリテーションは医療現場だけでなく介護現場でも必要とされていることから、今後ますます活躍の場が広がるでしょう。
インフォームド・コンセント
患者は自分の病気やこれから受ける医療行為について「説明を受ける権利」と、治療方法を選択する「自己決定権」をもっているという概念「(医療に関する十分な)説明と同意」などと和訳されています。
コメディカルスタッフ
「コ(co-)」は「共同の」「相互の」などの意味をもつ接頭語です。コメディカルスタッフとは、「相互に医療に関わるスタッフ」という意味で、医師以外の医療に携わるスタッフのことです。具体的には、看護師・保健師・助産師・臨床検査技師・理学療法士・作業療法士・薬剤師などがコメディカルスタッフに含まれます。現在の医療は、医師だけに任せておくには量・内容ともに負担が大きすぎるため、専門分野のスタッフが協力する形になったのです。
ターミナルケア
治癒が難しい病気を抱えている患者に対して行うケアのこと。悔いのない余生を送るために、無理な延命治療は行わず、痛みなどの不快な症状を取り除くことを目的とした治療です。また、患者やその家族の精神的な支えとなり、病気や死に対する不安を取り除くことも重要となります。医療関係者だけでなく、カウンセラーや社会福祉士などがチームを組み、患者のQOL(参照)向上に向けて協力しています。
認定看護師/専門看護師
看護師の仕事の中で特に高度な技術や知識が必要と考えられる分野について、質の高いケアを行うための資格認定制度があります。
認定看護師は「救急看護」「皮膚・排泄ケア」「集中ケア」「緩和ケア」「透析看護」などの高い技術が必要な分野で、実際に質の高いケアを行います。専門看護師は「癌(がん)看護」「精神看護」「地域看護」「老人看護」「小児看護」「母性看護」などの分野全体を研究し、高い技術のケアを実践したり、他の看護師へ教育を行ったりします。
医療の高度化や専門化に伴い、認定看護師も専門看護師も対象分野が広がりつつあります。