工学機械工学
どんな学問?
機械を研究・開発・設計!
「工学」という言葉でみなさんが最初にイメージするものは何ですか?自動車やロボットなどが思い浮かぶのではないでしょうか?機械を研究し、設計するという点で、「機械工学」はまさに「工学」のイメージにふさわしい学問と言えます。機械工学のベースは、「力学」です。まずは「機械力学」「材料力学」「流体力学」「熱力学」の四力学と、機械の設計・機構を学びます。そのうえで大きく下記の分野に分かれ、より専門的な研究・設計・製作を行います。
1.材料・構造系
機械を構成している「材料」の性質・強度・加工を研究する分野です。壊れにくい素材や形状を追及して故障や事故を防ぐこと、振動を測定・低減することなどを目指します。近年は環境にやさしい材料利用を考える「材料プロセシング」の研究も求められています。
2.熱・流体系
熱・流体(=液体・気体)の現象や動きについて学び、機械エネルギーへの応用を目指します。エンジン設計には必要不可欠な分野で、現在開発されている燃料電池やヒートポンプの基礎にもなっています。
ひとことコラム
いま、世界が注目する新材料
これまで車やハイブリッド自動車、家電製品などには「レアアース」という希少金属が不可欠でした。しかし、このレアアースは産地が限られていることから価格が高騰し、調達リスクを抱えていました。そのため、世界中で大学や企業が協力して研究を行い、レアアースを必要としない新素材の開発に取り組んでいました。
そして近年、ついに日本でレアアースを一切使用していないハイブリッド車が発売されました(1982年に佐川眞人氏によって発明されたネオジム磁石が使用されています)。これが世界で初めての実用化となり、今後世界中に広まると期待されています。
3.設計・製作系
各部品の性質・形状・強度を理解し、その機能を最大限に利用して、よりよい機械を作ることを目指します。機械の構造やデザインを考えるのが設計、それを実際に形にするのが製作です。設計にはCAD(参照)と呼ばれるコンピュータを用いますので、大学でもCADを使った設計演習が設置されています。
4.計測・制御系
各部品の性質や機械の動きを数式で表現・解析し、機械を思い通りに動かすことを目指します。近年は「メカトロニクス(参照)」や「リモートセンシング(参照)」の研究開発が進んでいます。
機械工学は工学の中でも特に他分野との連携が盛んで、その研究成果は医療福祉・画像処理技術・環境問題・エネルギー問題など多くの分野で活用されています。
Q&Aこんな疑問に答えます
Q.
どのような人が機械工学に向いていますか?
A.
とにかく自動車やエンジン、ロボットが好きな人、その構造が気になる人、機械の設計や開発に興味がある人にはお勧めの学問です。また、機械工学で学んだ知識があれば様々な分野に貢献することができます。車イスや介護ロボットは福祉分野に、人工臓器やX線診断装置は医療分野に、省エネ機械は環境分野に。つまり「実社会をよくしていきたい」「貢献していきたい」と考えている人も活躍できる分野なのです。
Q.
機械工学は女性には厳しいでしょうか?
A.
確かに機械工学の学部・学科に女性が少ないのは事実です。しかし、女性だから厳しいということはなく、むしろ最近では女性が活躍する割合が増えています。現在はコンピュータシミュレーションにより女性でも研究しやすくなっていますし、かわいいデザインの自動車や、繊細な動きをする介護ロボットの開発などは、特に女性に期待される部分でしょう。就職するときも女性だから不利ということはなく、女性の人材が必要とされることもあるようです。
Q.
自動車を研究するには、機械工学に進めばいいですか?
A.
自動車のどの部分に携わりたいかで、考えるべき学部・学科は異なります。カーナビや自動制御システムについて研究したいのであれば「情報工学」、自動車の燃費向上やCO2排出削減についてであれば「材料工学」の方が向いているかもしれません。最近は電気自動車の開発も盛んですから、「電気・電子工学」で研究できる大学もあります。また、車のデザインに興味があるなら「芸術学」のデザイン・工芸分野や「工学部」の工業デザイン学科なども調べてみましょう。「土木工学」で交通システムについて学ぶという道もあります。ぜひ、自分の興味を掘り下げて学部・学科選びをしていってください。
こんな研究もあるよ
機械制御の救世主——「メカトロニクス」
メカトロニクスは、機械工学(=Mechanics)と電子工学(=Electronics)を合わせた和製英語ですが、最近は外国でも通じます。
機械製品だけで人間の手のような複雑な動きを出すには、膨大な部品が必要となります。設計や生産に時間がかかり、開発費用も高くなってしまいます。そこで、制御の部分にコンピュータを使って、少ない部品で複雑な動きを可能にする技術がメカトロニクスです。現在ではありとあらゆる機械に「マイコン」と呼ばれる電子制御の部品が組み込まれていますので、みなさんも身の回りの家電製品で見つけることができるでしょう。
卒業後の主な進路
自動車など機械メーカーの設計・開発へ
大学によっても異なりますが、大学院への進学が多いのが特徴です。就職先としては、製造業界・自動車関連業界・電気電子機器業界・運輸業界などがあります。いずれも研究職や設計・開発部門・エンジニアなどとして、専門性を活かした仕事ができます。
永久機関
何もないところからエネルギーを作り出すシステム。毎年数件の特許が出願されていますが、すべて実現不可能であることが熱力学で証明されています。有名な永久機関の例としては、紙を水につけると水が自然に吸い上がる「毛細管現象」で水を吸い上げ、そこから水を流して水車を回すというものがあります。外から力を加えずに水車を回してエネルギーを得る。これならエネルギー問題が起こることはなくなりますが……みなさんはこの装置が実現不可能な理由がわかりますか?
次世代自動車
環境に配慮した(=LCA,参照)自動車のこと。エコカーとも呼ばれ、電気自動車・クリーンディーゼル車・燃料電池車などがあります。化石燃料の使用を抑えることで地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出も抑えられる反面、コストがかかる、航続距離が短い、充電できる場所が少ないなどの課題もあります。そこで現在、自動車メーカーや政府は、技術開発・インフラ整備・普及促進に取り組んでいます。
疲労
ある物質が壊れないレベルの力を繰り返し受けたとき、その物質の強度が低下する現象のことです。実際はその物質が小さな力を受けたとき、破壊はされなくとも原子レベルで一部分の組成がもとの状態に戻らず、それが繰り返されることによってヒビが入っているのです。例えばジェットコースターや鉄道の脱線事故は、金属疲労が原因となることがあります。
ヒューマノイドロボット
人間と同じように頭・手・足・目などがあるロボットのこと。将来は、家事手伝い・留守番・受付など様々な用途で利用される可能性があります。また、最近では自動車会社のホンダが二足歩行ロボットを開発し、さらなる技術開発が進んでいます。最近では、ソフトバンクが開発したPepper(ペッパー)が一般販売されたり、店頭で接客を行うなど、ロボットが私たちの生活に身近なものになりつつあります。