理学化学
どんな学問?
原子・分子レベルで物質を解明
「化学」は「ばけがく」とも呼ばれるように、物質が特定の状態においてどのように変化するかを解明し、理論化する学問です。
大学で学ぶ化学は高校の勉強をさらに発展させ、物質のメカニズムを追及し新しい物質や反応を作り出す、いわゆる基礎的な研究が中心となります。また、それらの研究をもとに実際に使える製品にするための研究を行う「応用化学」という分野もあり、工学部に設置されています。
研究分野は、「化学」「応用化学」ともに大きく5つの領域に分かれます。
1.物理化学
高校で習う理論化学に相当する分野で、物理学の手法を用いて物質の性質や化学反応のメカニズムを解き明かしていく学問です。原子や分子の運動を説明する「熱力学」や、化学結合や電子の動きを扱う「量子化学」などもこの分野です。
2.無機化学
元素や無機化合物を研究対象とし、その構造・性質・生成法を考える学問です。半導体や光通信の研究など、現在の科学技術の発展には欠かせない分野となっています。
3.有機化学
タンパク質や石油などに代表される有機化合物を対象とし、その性質の分析や、新たな物質の合成方法の研究が中心です。合成繊維や医薬品に利用されている物質だけでなく人間の体も有機物ですので、研究領域は広範囲に及びます。
4.分析化学
物質の中に含まれる成分の種類・量・構成を様々な分析方法を用いて研究する学問です。また分析方法それ自体も研究対象となり、既存の分析方法や原理の解明、新しい分析方法や原理の創造を目指します。
5.生化学
生命活動を化学の視点から研究する学問で、「生物化学」とも呼ばれます。有機物や生態環境など、生物を構成する物質全体が研究対象です。特に核酸(DNAやRNA)やタンパク質の研究は、重要なテーマとなっています。
上記の他に、応用化学では「化学工学」という分野もあり、新たに発見・製造された物質を実際に製品として生産していくプロセスを学んでいきます。特に最近は「環境にやさしい化学(グリーンケミストリー)」が要求されており、環境やエネルギー効率を考える研究も盛んです。
また、理工学系では実験や実習が重視されますが、特に化学・応用化学の分野では、実験による理論の検証が重要視されています。他の学科と比べても実験の量が格段に多いのも特徴と言えるでしょう。
Q&Aこんな疑問に答えます
Q.
高校までの化学の授業との違いは何ですか?
A.
高校までに学んだものをさらに深く、詳しく学習していくのが大学で学ぶ化学です。高校までの化学と大きく違う点は、化学反応のしくみ、つまり電子の動きを学んでいくことです。高校の化学では化学反応式は暗記しますが、大学では反応メカニズムの本質を理解することができるのです。その他にも、例えば物理化学では数学の微分・積分を使って化学反応の解析をしていくなど、高校の化学よりも発展した勉強をしていきます。また、机に向かって理論を学ぶだけではなく、他の学科と比べても実験が高いウエイトを占めます。そして実験のあとには必ず、レポートの提出があるのも特徴です。
Q.
どのような人が化学に向いていますか?
A.
実験が重要視されるため、実験に興味がある人にはとてもお勧めの学問です。実験では緻密(ちみつ)な数値を積み重ねていくことが重要であるため、ものごとに根気強く取り組むことのできる人にも向いているでしょう。数学や物理学が得意な人も、その知識を活かすことができます。「化粧品」「薬」「食品」といった分野の仕事に興味のある人も選択肢の1つとして考えてみるとよいでしょう。
ひとことコラム
奇跡の発見〜セレンディピティ〜
みなさんは「セレンディピティ」という言葉を知っていますか?ふとした偶然がきっかけで思いもよらぬ結果をもたらすこと、そのような幸運をつかみとる能力をさします。2010年にノーベル化学賞を受賞した鈴木章氏は、「セレンディピティのチャンスは誰にでも平等にある。しかし、それをうまく生かすには、注意深い心と、一生懸命やろうと努力する精神、そして物事に対して謙虚に考えることが必要。そういう努力をしなければ、幸運の女神が微笑むことはない」と話しています。実際、2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏は受賞当時、民間企業で働くエンジニアでした。
科学者だけではなく、誰もが大きな発見をする可能性を持っているということですね。
こんな研究もあるよ
超臨界流体の不思議なパワー
みなさんは、物質の状態は「固体・液体・気体」の3種類と学んできていますね。ところが、一定以上の温度・気圧のもとでは、固体でも液体でも気体でもない「超臨界流体」という状態が存在するのです。この超臨界流体は、液体の性質と気体の性質を兼ね備え、物質の分解に優れた働きをします。例えば、水は374℃、218気圧という高温・高圧状態で超臨界流体になり、環境を汚すことなくダイオキシンやフロンなどの有害物質を分解します。また、バイオマス(参照)からエネルギーを抽出することにも利用されています。現在、企業や大学、研究機関が協力し、超臨界流体のさらなる実用化を進めています。
卒業後の主な進路
薬品、繊維、化粧品材料メーカーなど
研究者として幅広く活躍
他の理工系学問と同様、大学院に進学する人が多いようです。大学院進学後の就職先としては、化学薬品メーカー、繊維・印刷・化粧品などの生活用品メーカー、石油関連企業の研究職が中心となります。
近年はエネルギー資源や材料資源の高騰に伴い、材料メーカーへの就職も好調で、ナノテクノロジーや材料を専門とする分野、環境関係の職業に就職する人も増えています。
カップリング反応
2つの化学物質を統合させる化学反応のこと。さらに、同じ構造の化学物質を結合させる場合をホモカップリング反応、異なる構造の場合をクロスカップリング反応(テヘロカップリング反応)と言います。2010年、鈴木章教授・根岸英一教授がこのカップリング反応の1技法を確立したことでノーベル化学賞を受賞し、大きな話題となりました。両教授の確立したカップリング反応は基礎研究だけでなく、医薬品・液晶・有機EL・農薬など、多くの分野で実用化されています。
ニホニウム
新しい元素は、今も発見され続けています。2000年に入ってから複数回発見され、2015年に新元素として認定されたのは113番の元素。これは日本の研究チームによって発見された、日本初さらにはアジア初の元素です。当初は暫定的に「ウンウントリウム」と呼ばれていましたが、2016年に正式名称が決定。それが現在の化学の教科書に載っている「ニホニウム(Nh)」です。