環境学
どんな学問?
人と環境をつなぐ架け橋
「環境」とひとくちに言っても、住環境や都市環境などの身近なものから、自然環境などの地球規模のものまで様々です。そのような幅広い意味での環境と人間が共存するためにはどうすればよいかを考え、持続可能な発展を目指すのが「環境学」です。特に最近は環境問題が複雑化しています。「自動車」1つを例にとって考えてみても、排気ガスに含まれるCO2は地球温暖化を促進させ、窒素酸化物は大気汚染を引き起こします。動力に使用するガソリンや電気はエネルギー問題につながり、土壌汚染や水質汚染などの問題も挙げられます。そして、使えなくなった車の処理はゴミ問題につながります。このような環境問題の発見・分析・解決を複合的に考えていくことが環境学の大きな目的です。そのため、ここでは環境問題を軸に、環境学を3つに分けて見ていきましょう。
1.環境問題の発見や分析に関わる分野
環境問題の発見・分析には高度な専門知識が必要です。水質汚染や大気汚染なら「化学」、地球温暖化なら「気象学」、生態系に関することなら「生物学」というように、理系の学問が中心となります。「環境化学「」生態学「」地球科学「」環境植物学」などもこの分野で必要となる知識です。もちろん、こういった問題の発見・分析に関わる専門家は、問題の改善・解決にも深く関わっていきます。
2.環境問題の改善・解決に関わる分野——文系的な側面
環境を守るためには社会のルールや枠組みも必要です。例えば、スーパーマーケットやテレビでよく見かける「エコバッグ」。プラスチック製のレジ袋の使用を減らし、ゴミ問題を解決する方法の1つとして私たちの生活に浸透しつつあります。社会の枠組みから環境問題を捉えて解決法を考える「環境社会学」は、この分野で求められる学問です。
また、地球温暖化など環境問題のなかには国境とは無関係のものが多く、必然的に「国際法」「国際政治」とも関係します。環境問題は経済活動の結果によるものだという見方もあるため、「政治学」「財政学」の面からも考えていく必要があります。他には、環境保護を目指した教育を行う「環境教育学」などもこの分野で求められる知識です。
3.環境問題の改善・解決に関わる分野——理系的な側面
人間の生活が地球環境に与える負担を減らすことを目指す技術を「環境テクノロジー」と呼びます。汚染物質の排出が少ない「クリーンエネルギー」や「燃料電池自動車(FCV)」の開発、資源を再利用する「リサイクル」技術の開発などがこれに当たります。ただし、開発するテクノロジーにはコストなどの面で実用性が求められるので、経済や政治などの幅広い知識も必要となります。
Q&Aこんな疑問に答えます
Q.
どのような人が環境学に向いていますか?
A.
自然環境から社会環境まで、とにかく環境を改善したいという目的意識をもった人です。研究の分野や方法論ではなく、「環境を改善する」という目的によって定義される学問なので、この目的意識さえあれば、誰でも環境学に向いていると言えます。それに、環境学は非常に幅広い研究分野を含むので、どのような適性をもつ人でも重要な貢献ができる学問と言えるでしょう。
Q.
環境学を学ぶには、どんな学部・学科に進んだほうがいいですか?
A.
最近では多くの大学が「環境」という名前のつく学科を設置していて、環境系で1つの学部を設置している大学もあります。文理を問わず環境に関わる分野を幅広く学べるところも多いため、「環境に関わる研究がしたいけど、どの分野を専門にするかはまだ決まっていない」という人は、そういった学部・学科を選ぶのも1つの選択肢です。学習科目や内容は大学によって異なりますので、各大学の学部紹介などを比較して自分に合った学部・学科を選びましょう。また、環境問題は非常に広い分野をカバーしますので、「工学」や「法学」など各分野のエキスパートが活躍する場もたくさんあります。どういう形で環境問題に関わっていきたいかで、学部・学科選びも大きく変わってきます。
こんな研究もあるよ
地球温暖化問題の解決を目指して!
「地球温暖化」を例にとって、「環境学」の各分野が実際にどのように環境問題の解決に関わっているかを簡単に紹介しましょう。
●発見・科学的分析
19世紀前半から20世紀半ばにかけて、多くの物理学者や気象学者によって、大気中の二酸化炭素濃度と地球の気温が関係している可能性が強いことが指摘されました。現在は科学者たちがチームを組み、専門的に分析をしています。
●地球温暖化改善に向けた法・経済・政治的アプローチ
1992年、「地球サミット」と呼ばれる国際会議において、大気中の温室効果ガス濃度の安定化を目標とする「気候変動枠組条約」が採択されました。その締約国が年に1回集まり、温室効果ガス排出削減などについて協議するのが「気候変動枠組条約締約国会議(COP)」です。2015年のCOP21では、世界の平均気温上昇を産業革命前の2℃未満に抑えることを目標として「パリ協定」が採択され、歴史上初めて世界中のすべての国と地域が参加することになりました。その中で日本は、2030年までに2013年度比で26%のCO2削減を目標に掲げています。
●地球温暖化改善に向けた科学技術的アプローチ
人間が排出するCO2の大部分は、石油や石炭といった化石燃料の燃焼によるものです。そのため、化石燃料に替わる新しいエネルギーや化石燃料を使用しない技術の開発が進められています。例えば「電気自動車」や「燃料電池車」などのエコカーは、電力を利用してガソリンの消費を削減します。エタノールなどの「バイオ燃料」は、ガソリンよりもCO2を排出しません。「太陽光発電」や「風力発電」などのクリーンエネルギーもあります。これら「環境テクノロジー」の多くは、より実用性を高めるためにコスト削減などのさらなる研究が進められています。
ひとことコラム
「「誰ひとり取り残さない」世界を実現する! ~SDGs~
2015年に開かれた国連サミットで「2030年までに達成すべき世界共通の目標」が作られました。Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の頭文字を取って「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」と呼ばれるこの目標は、世界中の「誰ひとり取り残さない」ことを理念とし、「17の目標」と「169のターゲット(具体目標)」で構成されています。
現在、日本でも政府や自治体、企業、学校など様々な機関がSDGsにつながる取り組みをしています。こちらはSDGsを促進させるために作られたロゴです:https://www.unic.or.jp/files/sdg_poster_ja.pdf。皆さんも日常生活の中で目にすることがあるかもしれません。
卒業後の主な進路
あらゆる分野で環境の知識、技術が求められている!
環境に関わる仕事に就く場合、まず前述した3つのうち、どの分野で仕事に当たるのかを決める必要があります。
理系の場合、専攻や研究によって目指す方向はだいたい決まってくるでしょう。大学院への進学率も高く、就職先としては政府機関や製造業などが挙げられます。文系の場合は大きく分けて、環境に関する規制を作る仕事と、その規制のもとで効率よく企業運営を行う仕事に分かれます。前者は主に環境省などの政府機関、後者は製造業や建築業、食品関係などをはじめとしたほとんどの民間企業が就職先となります。また、教員や学芸員となって環境問題について指導を行う道も考えられます。
環境問題の解決や環境の改善は、社会において非常に重大なものとなります。そのため、環境に関する知識・技術があらゆる分野で求められていると言っても過言ではないでしょう。
ISO14001
簡単に言うと、「環境に配慮している会社」ということを認証する国際的な規格です。その企業の活動内容は環境に配慮したものになっていて、実行後も見直し・改善がなされている(=環境マネージメントシステム)か、外部機関の審査を経て認証を取得できます。認証を得たことで特別な優遇があるわけではありませんが、「環境に配慮している企業」として信頼を得ることができます。
温室効果ガス(Greenhouse gas)
地球温暖化の主な原因である温室効果を起こす気体の総称。このうち、地球温暖化対策でよく話題に上がるのは二酸化炭素とメタンです。その他には、水蒸気・オゾン・亜酸化窒素(笑気ガス)などが含まれます。
環境アセスメント(環境影響評価)
道路やダム、発電所などを開発することで、私たちの生活はどんどん便利になっています。反面、その開発事業が環境に悪影響を及ぼすこともあります。それを防ぐため、その事業が環境に及ぼす影響を事業者自らが調査・予測・評価し、改善を加えて事業内容を決定する――これを環境アセスメントと言います。利益の追求だけではなく、環境保全についても考えようという大事な活動です。
環境税(Eco tax)
環境に悪影響を与える活動(化石燃料の燃焼、産業廃棄物・汚染物質の排出など)に税金を課すこと。結果として、環境に悪影響の少ない技術が採用されるなどの効果が期待できます。
再生可能エネルギー(Renewable energy)
クリーンエネルギーの1つで、風力・水力・太陽光・地熱など、人間が使い果たすことのないエネルギー源のこと。もちろん、これらのエネルギー源は太古からありますが、「再生可能エネルギー」という場合には、主に電力を生み出すエネルギー源として利用するものを指します。