Interview
面白くて“詰まらない”研究が
エネルギー問題を解決する!
東京海洋大学 海洋電子機械工学部門 准教授
盛田 元彰 先生
地熱発電、普及の鍵の1つは
スムーズな地下水の循環
私は「材料工学」の観点から、地熱発電の普及を進める研究をしています。具体的には、
地熱発電に利用される地下水を循環させる配管等の「腐食」と「詰まり」の研究で、現象としては、「水中で析出する物質」と「配管等の材料表面」の相互作用になります。
地熱発電とは、地下に存在するマグマで温められた熱水を利用した発電であり、二酸化炭素の排出量がほぼゼロであることから環境に優しい再生可能エネルギーの1つです。また、太陽光や風力発電とは異なり天候などの自然条件にほぼ左右されず安定的に発電できるのも特徴です。地上に取り出した熱水は、熱の一部を発電に利用した後、そのまま取り続けると枯渇してしまうため地下に戻します。戻した水がマグマで再び温められてエネルギーを得ることで、発電に再利用できるのです。このように地上と地下で水を循環させ、マグマの熱から永続的に(再生可能な)エネルギーを得ているのが地熱発電です。しかし、この「循環」を続けることは難しく、その理由が水中での物質の析出と関係しています。
地下水の周りには岩石があり、塩や砂糖と同じように、温度が上昇することで水中に溶けやすくなるものがあるため、地熱発電で用いられる水は基本的にミネラルを豊富に含むものとなります。そして、地上へ取り出される際には圧力や温度の低下が生じ、地下では溶けていた炭酸カルシウム(CaCO3)やシリカ(SiO2)といったミネラル成分が鉱物となってあらわれ、これが配管等の材料表面に付着します。そうすることで配管が詰まって水をうまく循環させられなくなり、発電量が低下することが1つの問題となっているのです。この付着物・堆積物のことを「スケール」といい、これまでそれを抑制する技術開発がなされてきましたが、抜本的な解決に至るようなものは開発されていません。その理由の1つが研究室でのスクリーニング試験が難しいことにあります。
模擬スケールによる実験で
実際のスケール形成を防ぐ
なぜ難しいのか、皆さんの身近にある温泉を例に考えてみましょう。温泉と同じ泉質を家のお風呂で体験するのが難しいことは皆さんもなんとなくお分かりになるでしょう。また、「スケール」は温泉でも見ることができ、その物質は「湯の花」と呼ばれているのですが、温泉の泉質や湯の花が地域によって違うことはよく知られていますし、温泉旅行へ行ったときなどにそれを体感できている人も多いと思います。これは地熱発電の熱水も同じで、発電所ごとに泉質が異なり、スケールも異なります。実環境と同じ性状のスケールを実験室で析出させることは難しく、たとえ実験室で効果が得られても実環境で期待した効果が得られないことがほとんどです。
そこで私達の研究室では、実環境で採取されたスケールの結晶構造や分子構造を入念に分析し、それと同様の構造をもつスケールを合成しています。この研究が完成すれば、スケールの形成を抑制できる技術開発の速度は著しく上がると考えています。すでに実験室で模擬ができている温泉もあるのですが、もっと多くの地熱発電所のスケールを模擬できるよう研究を続けています。模擬スケールがあれば、実環境でのスケール形成の仕組みも明らかにできると考えており、材料表面上でどのようにスケール化していくか等の過程やメカニズムを明らかにしている最中です。
温泉旅館に泊まる楽しみから
世の中を変える大きなやりがいまで
この研究を始めたきっかけは、恩師が企業の方から「地熱発電の材料開発が今後重要だが、そういった仕事をできる人はいるか」と尋ねられたときに、私を推薦してくれたことでした。そこから勉強を始めましたが、勉強すればするほど分からないことがたくさんあり、分からないことがあることに面白さを感じて研究を続けられています。フィールド試験を行う必要があるため実験室にとどまらず現場を知れること、それが温泉地域の近くであるため温泉旅館に泊まることが多いのも楽しみの1つです。また、多くの人の助けが必要な研究であることから、人との出会いが多いこともこの研究の面白さに思います。そして、この研究はエネルギー問題にも直結しており、本当にこの研究が完成したときには世の中を変える可能性があることは大きなやりがいとなっています。
自分のしたいことや高い専門性を身につけていれば、必ずどこかで活躍できると思います。ではどうやって見つけるのか。それは、実際の世界でもネットの世界でも良いので、多くの人と接し、会話することだと思います。私は大学時代、いつも同じ人、同じ場所で遊んでいました。この状況では、自然と似たもの同士が集まるようになります。そして、人は意識せずそのグループ内での比較を行なってしまいます。結果として、狭い範囲で人と比べ優劣をつけてしまい、自分の能力を誤解してしまいがちです。普段の友達の中では「詳しくない人」であっても、他のグループの中では「一番詳しい人」となることが多々あります。自分が外から見た時に、好きなことや高い専門性を有していることを自覚するには、色んな経験をすることが重要です。様々な勉強や場所に身を置いてみて、自分を客観的に見ることが効果的です。ここまで真面目な話をしてきましたが、真面目すぎるといつか息苦しくなってしまいますから、遊びも楽しんでください。よく学び、よく遊ぶ、皆さんがそんな楽しい大学生活を過ごせるよう祈っています。
東京海洋大学 海洋電子機械工学部門
https://www.e.kaiyodai.ac.jp/MT/MEME/index.html
東京海洋大学 海洋工学部 海洋電子機械工学科
https://www.kaiyodai.ac.jp/faculty/e/MEME/
盛田 元彰先生の研究室
https://www2.kaiyodai.ac.jp/~mmorit0/
https://www.kaiyodai.ac.jp/Japanese/SDGs/interview09.html
東京海洋大学_盛田 元彰先生
https://olcr.kaiyodai.ac.jp/db/profile.php?yomi=MORITA,Motoaki